第32章 見た目
ボソリと出久は華に聞こえるくらいの音量で囁いた
「あんまり可愛くなっちゃうと抱き締めたくなっちゃうな」
そう言うと出久は華に向けてにこりと笑った
突然の爆弾発言に華はぼっと音がしそうな程に顔を赤くした
「あっ、赤くなった」
嬉しそうな顔の出久に華は「わ…私急ぎの用事思い出した!先に帰るねっっ!」
「えっ!?ちょっと華ちゃんっ!」
慌てて止めようとする出久の声も聞かずに華は脱兎の如く走り去ってしまった
「逃げられちゃった…」
きっと華はただ似合うとだけ言って欲しかったのだろう だけど予想外の言葉にどうしていいかわからず逃げ出してしまったということだろう
「ホント 可愛いんだから」
クスリと僅かに笑った出久の様子をいつのまにか残りの2人が見つめていた
「緑谷ってたまに押しが強いよな…」
ボソッと轟が呟いた言葉に勝己は苦虫を踏み潰した様な顔をした
「ケッ…!」
そう言うと今度は勝己がドスドスと校門をくぐって行った
「華も帰っちまったし、俺達も帰るか…」
「…そうだね」
そう言いながら揃って足を動かした
何故だか雰囲気的に一緒に帰ることになってしまった轟を出久はチラリと盗み見た
もしかして彼は華ちゃんの事が気になっているのではないか
さっきの言い方といい良く良く思い返せば気になっているのではないかと思う行動が多々ある
でも出久にはど直球に彼女が好きなのかと問う度胸はまだない
聞いた所で「ハイそうです」なんて返されたらなんて返していいのか分からなかった
もしそうだとしても彼女を想う気持ちは負けないと言い切れる
かっちゃんの方は十中八九好きなのだろう
ずっと見てきたからわかる とてもわかりやすい
だけどいくらかっちゃんでも引く気にはなれなかった
僕だってずっとずっと見てきたんだ
そんな事を思いながらじーっと轟を見つめてしまえば
視線に気が付いたのか轟が不思議そうに首を傾げた
「…?なんだ?言いたい事でもあるのか?」
「…!?ううん、何でもないよ」
「…そうか」
その後はちょこちょこと他愛ない話をしながら帰った
お互い核心を聞けないまま