第28章 思い〜相澤消太〜
日付けが変わる少し前に華は絵里とタクシーでマンションへと帰って来た
「じゃぁ、明日は秋彦さんと久し振りに日本でデートするから明後日、最後の夜に消太さんも一緒に食事しましょうって伝えておいて」
タクシーを降りる華の後ろ姿にそう伝えるとバタンとドアが自動で閉まる
華は振り返ってわかったというように頷くと絵里に向かってヒラヒラと手を振った
その様子に絵里は何故だか慌てたように窓を開けた
「華ちゃん、私達はとてもとても貴女が好きなの」
「えっ?何?いきなりどうしたの?」
突然母親に言われた言葉に驚いたように絵里を見た。
幼い頃から好きなんてよく言われたが、そんなに思いつめたように言われたのは初めてだから正直戸惑った
絵里は華の戸惑った様子にハッとしたのか慌てて笑みを作った
「いえ、言いたくなっただけなの、でも急に言いたくなっちゃうくらいに私達は華ちゃんの事大好きでいつも思っているのよ」
伸ばされた手が華の頬に触れると優しく一撫でして離れていった
「それじゃぁね」
そう言うと絵里を乗せたタクシーは闇夜へと走っていった
華は絵里が乗っていったタクシーが見えなくなるまで闇夜を見つめていた
何だろう、いつも言われ慣れている言葉に含みがあったような気がする
いや、久しぶりに会って言われたからそう思ってしまっただけなのか
華は何故だか あの言葉が頭に引っかかりながらも玄関の鍵をガチャリと開けた
開けた扉の先には家主はまだ帰ってきていないというようにシンと静まり返っていた
華はほっと息をついた、チラリと掛け時計を見ると、もうすぐ日付けが変わろうとしていた
きっとこの様子じゃ消太くんは遅くなるに違いないと思ったのか華はさっさと寝てしまおうと着替えて自分のベッドに入る
明日は土曜日で学校も休みだからもう少し詳しく消太くんの口からこれからどうするのかハッキリと聞きたいとも思った
でも聞いて私はどうしたいのだろう、離れるのは嫌だとか言って欲しいのだろうか、それこそありえない だってそもそも嫌々の同居だったんだから 自分の都合のいい妄想に渇いた笑いを零して今度こそ目を閉じた
明日はうまく笑えてると信じて