第5章 《リヴァイ》変わらない場所
「…………」
気の利く言葉はひとつも思いつかないまま、ただ、抱きしめられていた。
頭が真っ白、と言うのはこういう時のことを言うのだと思った。
本当は、腕を回したかった。
もし許されるのなら腕を回して、抱き締め返したかった。
けれど、何度も体の横で手を僅かに上げては下げてを繰り返すばかり。
あと少しの勇気が出ない。
「……すまなかった。どうかしてるな。」
そんなこと、ありません。
そんな、謝らないでください。
リヴァイ兵長が私の体を離した。
目が合って、数秒見つめあって、そのあと寂しそうな瞳が横に逸れた。
待って、行かないで。
私だって、私だって一
「リヴァイ兵長!」
至近距離なのに、大きな声を出してしまった。
目を見開いて、またこっちを見た。
「私は…ただの紅茶屋でしかありません。親の形見であるこの店を守りながら、平穏な日々を暮らしていけたら…ぐらいにしか思っていませんでした。だけど…」
まっすぐ見つめた。
「3年前のある日を境に、知らず知らずのうちにそれだけでは満足できなくなりました。私にとって月に一度の特別な日。その日が待ち遠しくて仕方がなくて、その日を待ちながら過ごすようになっていったんです。」
声が勝手に震える。
「そして、その特別な日が来ないと不安で不安で仕方なくなりました。」
あと少しの勇気を一
「でも今日……不安で不安で仕方なかった気持ちが大きな安心に変わりました。とても嬉しかったんです、リヴァイ兵長のお顔が見られて、声も聞けて、」
私はその続きを話すことができなくなった。
リヴァイ兵長の唇が、私の唇に重なったからだ。
「………、」
冷たい手のひらが後頭部と腰に回されて、しっかりと密着した。
押し当てられた唇が少し開いて、吸い付くようなキスが降り注ぐ。
何度も、何度も、角度を変えてくっついては離れてを繰り返し、次第にそれは濃厚なものへと変わっていった。
私はもう、躊躇うことなく腕を回すことができた一