第3章 《エルヴィン》現実逃避 ※
「…………以上で作戦会議を終了する。」
号令とともに兵士たちがザワザワと席を立つ。
たった今、調査兵団の幹部層による次回の壁外調査の作戦会議が終わったところであった。
会議室を続々と後にする調査兵団の幹部達。
ここに集まっていた兵士は皆、巨人の討伐は言うまでもなく高い精神力を併せ持ち、常に冷静な判断ができる選び抜かれた精鋭たちばかりだ。
それくらいの技量を持つ兵士となればやはり実戦経験も豊富で、これまで何度も厳しい壁外調査を生き抜いて来た者が大半である。
そんな中つい半年ほど前に、周りの幹部達に比べて随分と若くして分隊長に就任した逸材がいた。
「エルヴィン団長。」
全員が出ていった後の会議室に残った一人の兵士。
彼女がその若くして第5分隊長に就任した、エマ・ウィリアムズである。
「どうした?エマ。」
柔らかな栗色の髪を腰上まで伸ばし、明るめのブラウンの瞳に影を作るほどの長い睫毛。背は高身長なエルヴィンの鼻のあたりまであり、一件モデルのような外見の女性兵士。
しかしエルヴィンを呼ぶその声は冷淡で、女性特有のキャピキャピとした感じはなく、愛想もあまりいい方ではなかった。
「次回の壁外調査の陣形について少し思うところがありまして…」
会議資料を捲りながらエルヴィンへ熱心に意見するエマ。
その姿は20代前半とは思えない落ち着きを放っていて、彼女の聡明さをより一層際立たせていた。
「………確かにエマの言う通りかもしれないな。少し配置を見直してみるよ。意見してくれて助かる。」
「ありがとうございます。ぜひよろしくお願い致します。」
にこやかに話すエルヴィンに対して、表情を変えずに頭を下げるエマ。
その頭に、ふわりと重みがのしかかった。
「エマ。」
「はい。」
頭上からエルヴィンの声が降り注ぎ、エマは頭を下げたまま目線だけを声のする方へ向けた。
「いつまでそうしているつもりだ?」