第1章 《リヴァイ》浴衣と花火とりんご飴と※
………暑い。
夏は大の苦手だ。
気温、湿度、刺すような太陽の日差し。
考えるだけで体が溶けちまいそうになる。
それに加えて気持ちの悪い虫が多いのも厄介だ。
中でも蚊なんて最悪。黙って俺の皮膚に傷をつけ、置き土産に体内へものすごく痒い毒を仕込まれる。
暑い上にあいつらがウヨウヨ飛んでいる外になんて、できるかぎり出たくない。
必要最低限の外出で、あとはエアコンの聞いた部屋でゆっくり本でも読むのが一番いい過ごし方だ。
「リヴァイさんっ!」
「………ほう、悪くねぇじゃねぇか。」
今日、俺はその茹だるように暑い外へこれから放り出される訳だが、今回はいつもと違って珍しく外出に対して前向きだった。
「えへへ。久しぶりに自分で着てみたんですけど、上手く着れてますか?」
「あぁ、柄もちゃんと正面向いてるし帯も綺麗に結べてる。」
「よかったぁ。鏡じゃ上手く見えなくてちょっと不安だったんです。」
俺の前で新品の浴衣に身を包み嬉しそうに眉を下げる小柄な女。
彼女のエマだ。
今日は俺の家の近くでそこそこ大きい花火大会が開催される日。
エマとこの花火を見に行くのはこれで3回目になるが、浴衣を着たのはこれが初めてだ。
「リヴァイさんもやっぱり浴衣すごく似合う。」
「裾が長くて暑苦しいが、お前とこの格好で並んで歩けるならこれも悪くねぇな。」
毎年お互い私服でぶらりと見に行く感じだったのだが、今年はエマが久しぶりに浴衣が着たいと言うのでそれに付き合った。
俺はエマの浴衣姿さえ見れれば十分だったのだが、エマはそれでは不服だったようで、半ば強制的に俺も浴衣に着替えさせられたのである。
「ふふふ。なんだか新鮮で楽しいですね!」
「そうだな。」
くしゃっと顔を綻ばせるエマ。
エマは俺より7つ年下だが、実際の年齢より落ち着いている方だと思う。
だが時折見せるこの少女のような屈託のない笑顔に俺は心底弱い。
今日なんて浴衣姿に髪もアップにしていて、いつもと違う雰囲気なのも相まってその破壊力は抜群、控えめに言って最高だ。