第13章 《リヴァイ》スパークル
腕の中でしゃくり上げるエマ。
解かれた左手も回して抱きしめてやる。
「もっと周りをよく見ろ。お前を救いたいと思ってる奴はいる」
「…せん、せ……」
リヴァイは抱きしめながら頭を撫でてやった。
できるだけの愛情を込めて。独りじゃないと言い聞かせるように。
長い時間そうしていた。エマの気が済むまでずっとだ。
リヴァイの胸はぐちゃぐちゃに汚れた。涙だとか鼻水だとか色々だ。
小さなホコリひとつで苛つくくらいの潔癖なのに、しかし今 心はとても穏やかだった。
ゆっくり離れていったエマは泣く前よりすっきりした顔をしていた。
「私……真面目に授業受けるよ。何がしたいのか、分かった」
「ほう。何がしたい?」
それは軽い好奇心で聞いただけだった。
まさかあんな答えが返ってくるなんて思ってもいなく、ただ本当に軽く。
だから、少女の答えに度肝を抜かれた。
「私、リヴァイ先生の彼女になりたい」
リヴァイから完全に離れ、エマははっきりそう言った。
見たこともないくらい眩しい笑みを湛えて。
「はぁ?」と声を出したつもりが上手く出なかった。瞬きも忘れ、柄にもなく酷く動揺した。
「あ、でも先生を犯罪者にはしたくないから、ちゃんと高校卒業してから付き合う」
「オイオイ、卒業しても未成年のうちは犯罪だぞ。それに俺の気持ちは無視か?」
まるで決定事項のように話されたから思わず突っ込む。
するとエマは一瞬キョトンとしたのち、「何言ってんの」と笑った。
「だって先生、私の事好きなんでしょ?」
「は?!何でそうなる」
「ふふ、何となく分かるよ?」
「どれだけ自信過剰野郎だてめぇは」
「違うの?」
悪戯に笑いながら小首を傾げてくる少女は今までとは別人のよう。無邪気な高校生そのものだ。
そしてどうやらこの言い合いは、その笑顔をとびきり愛おしいと思ってしまった自分の負けだと、リヴァイは心の中で呆れ笑った。
「……どうだかな」
くるりと背を向け、教材の片付けを再開させる。
背中に飛んでくる文句を受け流しながら、リヴァイは口元を緩めた。
「……なら、死に物狂いで卒業しろ。答えはそれから考えてやる」
fin.