第13章 《リヴァイ》スパークル
またこの季節がやってきた。
教壇に立つリヴァイは今年の顔ぶれを見渡す。
夏休みの補習授業。今日はその初日である。
ここにいる奴らは全員3年だ。
進学だとか就職だとか、人生のひとつの節目を決めるための大事な時期。
「今日から2週間みっちり頭に叩き込んでやるから気ぃ抜くんじゃねぇぞ」
間延びした返事、返事すらまともにしない奴。
どれも想定内の反応。
「リヴァイせんせぇー暑いーもうちょいエアコン下げてー」
「俺腹減ったから菓子食いながらでもいい?」
…これも想定内。
毎度毎度指導するのにも飽き飽きしてくるが、放棄するわけにもいかない。
リヴァイは短い溜息をつき、眉間に皺を寄せた。
「お前ら分かってると思うが、このまま二学期、学年末と赤点を取り続ければ進学どころか卒業さえ危うくなる。いいか?去年までとは訳が違う、その辺甘く見るんじゃねぇぞ」
念押ししてもやはり反応は薄い。
彼らの行く末が不安だが、教え子が路頭に迷うことがないよう今年も教師として最大限の務めを果たすまでだ。
「今から出席をとる。呼ばれたら返事をしろ」
名前を呼んでいく。やる気がないのが大半だが、一応それぞれ返事は返ってくる。
一定の経験を積んだ中堅教師ともなれば生徒の反抗など可愛いもの。
いくらツッパっていてもどこか純粋さがあるのものだ。それが初々しくて少し羨ましかったりもする。
まぁたまにごく一部、かなり問題のある生徒もいるが。
「富井 エマ」
「……」
「富井」
「……」
名前を呼んでも返事がない。
教室の空気が少しザワつく。だが誰一人彼女に話しかけようとはしない。
「聞こえてるだろう。返事しろ」
「……」
リヴァイは教壇から降り、ツカツカと窓側の1番後ろの席へ行くと、素早い動作で彼女の手からスマホを奪った。
「名前を呼ばれて返事するくらい幼稚園児でもできるが…てめぇはそれ以下か?」
「………」
手からすり抜けたスマホをじっと見ていた少女の目がこちらを向く。
謝るでもなく反抗するでもなく、ただただ無気力な目。そんな風に思った。
「こいつは授業が終わるまで没収だ」
リヴァイは少女——エマに告げ、スマホをポケットにしまい込む。
それでも彼女は無反応だった。