第26章 外伝

「仲間思いで、優しい…だから……本当に…大好き…なのにっ…」

　涙ながらに続けるあたしの独り言のような話を、何故か彼は背中合わせのまま席を立たずに最後までずっと聞いていてくれた。



◇ trust ◇

　ある日の夕刻、また彼女は一人で食堂にいた。
　副隊長と気まずくなった、と言っていた。つまり檜佐木副隊長が彼女を諭したか、あるいは責めたのかもしれない。
　同情の余地はない、当然だ。
　俺は単純にそう感じてしまうけど、副隊長の真意はきっと、彼女が落ち込むことになったとしても諫めて、自分を振り返る時間を作ってあげる事。
　確かに懐の深い優しさだと思う。俺なんかじゃ到底敵わない…
　改めてよく見ると、彼女は食事をするでもなくただ思い詰めた顔つきで座っていた。

「…あの」

　声を掛けると、突然弾かれたように席を立ち走り出してしまう。俺は無我夢中で彼女のあとを追った。

「あのっ……待って」

　外へ出て中央広場の中程で彼女に追いつく。

「…あの時はごめん。まだ謝ってなかったから」
「な…何よ今更…」

　彼女は横を向き力なく呟いたが、しばらくして問い掛けてきた。

「ね…ねえ、夢野四席ってどんな人？」
「慎ましやかでね、自分を後回しにするようなすごく謙虚で優しい人だよ」

　俺の答えに彼女は絶望的な表情を見せた。不思議に思い問い返す。

「なんで？」
「…え？」
「夢野さんと同じになる必要ないだろ？君は君なんだから」

　一瞬言葉に詰まった後、彼女は拗ねたように吐き捨てた。

「それだと嫌われちゃうんでしょ」
「じゃあ良いところを伸ばせば？悪いところを直していけば？」

　簡単に言ってくれる、という風な目線を向けられたが、直後彼女に急に詰め寄られた。

「…ねえ、あたしの良いところ一緒に探して！」
「は…？何で俺が…」
「お願い！」

　いきなり俺の手を両手で掴み、彼女は頭を下げてくる。

「お、おい…」