第11章 技局にて
唖然とする修兵と痛がる阿近にはっと気付き、胸元を直しながら平謝りをする。
「何だよ、ちょっと覗いだだけじゃねえがぁ…あいただ」
「ご…ごめんなさい!」
すぐに冷やしたタオルを用意し頬に当てる。
「痛いですか…?」
「あン?いや…少しな」
近寄って心配そうに顔を覗き込む萌にやや嬉しそうな表情を見せる阿近。優しく介抱されてまんざらでもないその様子に、修兵が再び口を挟んだ。
「何デレデレしてるんすか!」
「修、お前顔赤いぞ。そんな純情じゃねえだろお前は」
「なっ…そ、そんなことないっすよ!ひでえなぁ」
指摘を受け更に頬を赤くした修兵は心外だという風に抗議する。そのうち阿近が他の局員に呼ばれ去っていったので、萌達も技局をあとにした。
ぎこちない雰囲気に包まれ二人で隊舎へと戻る。会話がないのはさすがに気まずいと思い、どんな話題にしようかと思案する萌は、技局を出てから修兵が少しもこちらを見ずに黙りきりなことに気付いた。
「檜佐木副隊長…?」
不安になった萌が様子を伺うと、先程の事件でまだ動揺しているらしく少し頬が赤い。
「お、おう…いや、その…」
こんなにしどろもどろな修兵を見るのは初めてで、驚きつつも何だか可愛いと感じた。
「き、気をつけろよ、ちゃんと…自分の身守るようにな」
気をつけろって、いきなりキスしてきた檜佐木さんが言う台詞なのかな…
疑問に思ったけれど、真面目に心配してくれているようなので黙っておいた。
「ハイ、気をつけます」
「…じゃあ、今度飯行くか」
ぼそっと冗談めいて言われ、先程の会話の内容を思い出す。
「もっと育てろってことですか?」
「いや、俺はそのままで充分だと思う…」
「嘘だー、帰りに牛乳買っていこ」
わざと拗ねてみせると、修兵は楽しそうに笑いながらこちらを向いて話してくれていた。
「じゃ、次回確認させて?」
「イヤです!」
断固拒否する萌に笑って手を振る修兵。
「ははッ、またな萌ちゃん」
別れ際で向けられた屈託のないその笑顔から目が離せなくて、ぼうっと見送ってしまう。
見た目とは裏腹に素直な感情表現をする修兵が、萌には魅力的に映っていた。
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