第8章 親睦会
ただ、それは思い描いていた図とは随分違っていた。そこに広がるのはただ、乱菊の強気な姿勢に、修兵がなす術もなく従っているという上下関係の構図だった。
「おつまみ~」
「ハイハイ、今取ってきます」
酒と食べ物を適当に集めて乱菊のいるテーブルへ運んだ後、修兵はようやく解放されたというようにこちらへやって来た。
「よぉ、萌ちゃん来てくれてたんだな」
一角達とも挨拶を交わし、ひとしきり世間話をする修兵。
「檜佐木、飲み比べといくか?」
「俺今日はホントに控えたいんで。すんませんっス」
「仕方ねえな…じゃ、射場さんと勝負して来るわ」
一角が席を立ち場を離れると、修兵は少し楽しそうにこちらに話し掛けてきた。
「何飲んでんの?甘いやつが良かったら作ってくるけど?」
「檜ー佐ー木ーさぁーん、んじゃあオレに烏龍割り作ってください」
そこへ水を差すように、背後から恋次の低めの声が降ってくる。どうやらわざと狙って来たらしい。
「…なんでお前に俺が甘くも無えモンを作るんだよ、それに今入ってくんな」
途端に眉根を寄せて睨みつける修兵に対し、恋次は素知らぬ風に続ける。
「何となく危険を察知したんで」
「あぁ?テメーもう酔ってんのか」
いつもの悪ふざけとも取れなくはないが、やや険悪な雰囲気に包まれてしまった。見かねた萌があいだに割って入る。
「二人とも、仲良くして!あたしが作ります」
自分が何とかしなければ、という一心で萌は酒のボトルを手にしていた。
「はい恋次、烏龍割り。檜佐木副隊長は何がいいですか?」
「え…お、俺は水割り…」
二人はぽかんとして、てきぱきとお酒を作る萌を見つめている。
「ハイ、どうぞ」
「あ…どうも」
「みんなで乾杯~」
「か、かんぱーい」
場を取り繕い、二人の気を削ぐことに萌は一応成功した。
そんな危うい一幕がありつつも親睦会は進み、やがて会場はお開きムードになる。
だが何人かは飲み過ぎて撃沈しているようだった。特にイヅルは終始泥酔状態だったらしく床で雑魚寝する始末だ。
「おい吉良!雛森送るんならしっかりしろよ」
「う……ちょっと、酔い冷ましてくる…」
恋次に叩き起こされ、フラフラと部屋を出て行くイヅル。