第1章 拝啓赤き月へ
天月は案内された部屋の洗面台で、考え事をしていた。だがそれは、もう1人の同居人となる女性の声に中断される。
「おはようございます、ご主人さま」
可愛らしい声が部屋の中に響く。
疑問に思い何事かと、女性の元へ向かい様子を見てみると女性は、羽の生えた黒猫の挨拶に驚いていて、ベットから盛大に転げ落ちていた。
「いったあ……」
「おやおや、騒がしいお目覚めで……」
そして新たに、登場した私を見てまた声を上げる。
「だっ誰!」
「それはこっちのセリフ」
「大丈夫ですか?ご主人さま」
目を高速で瞬いて、瞼をゴシゴシとこすり、深呼吸をしてもう一度猫と自分の目の前で仁王立ちしている女性を見る。
「ご主人さま?」
「おーい、聴いてますか……?」
「ビックリしちゃうのも、わかります。ボクも初めての魔界にちょっぴりドキドキです……!」
「ウチは不安でイライラだけどね」
「でも、大丈夫ですよご主人さま。ボクが一緒なんですから、心配しないでくださいね!」
「ウチは今困惑しすぎて、合うやつ問答無用で攻撃しそうだけどな」
葵の目の前にいるしゃべる猫と、やつあたりのように言葉を並べる着物を着た人に困惑する。まだ彼女はここが夢の中だと思っているようだ。
「えへへ。こうやって葵さまとお話しできるなんて、夢のようです」
「はあ……」
着物を着た女性は溜息を吐く。
「……本当に、ルルなの?」
「はい!ボクは正真正銘、ルルです。学院長さまに、葵さまの使い魔にしていただいたんです」
「へえー、さすがは魔法の世界」
着物の女性は嘲笑うように言う。
「天月さまもそうおもいますか?」
「うん、本当すごいよ」
「……使い魔」
葵の呟いた言葉にルル猫が答える。
「はい。さあ、のんびりシャワーでも浴びてきてください。葵さまは、出かける前にお風呂に入るのがお好きですもんね」
飛行しながら肉球で主人を押し、入室を促されたのはバスルームで、背の向こうで「行ってらー」と略し言葉を耳にして葵は確信するこの人は紛れもなく自分と同じ世界の人だと。
「貴方さまが来てくれて心強いです。天下のお侍さま!」
いつの間に横に来たのか黒猫が話しかける。
「迷惑なんだけど」
「はわわ。そんなこと言わないでください。貴女が来ていただけなければ、きっとご主人さまは心細くて死んでしまいます」
