第5章 契約と思惑
弱い心を見せてしまった悔しさが、咽喉(のど)に言葉を詰まらせ邪魔をする。それでも聞かなければいけないと声を振り絞った。
「……モデアの………国王になりたいんですか、それとも魔王に……」
ドン……--
肩を押されたかと思うと、窓とフェンさんの間に閉じ込められる。見上げるとまるで別人のように冷たい笑みを浮かべた彼がいた。
「……」
いつも甘い笑みを浮かべ、気だるげに話す彼は今、感情を削ぎ落としたように静かだ。
嘘だった騙されていた-。
(もう認めるしかない)
「……騙されておけばいいのに、俺に好意で守られていると思ってるほうが幸せでしょ」
「……」
「気づかなければずっと……極上の嘘で気持ちよくさせてあげられたのにな」
顔が近づき、恐怖よりも虚しさがます。
(信じたかったのに………っ)
ドンッ!
すんでのところで強く、自分でも驚くほど彼の胸を突き飛ばしていた。
「嘘なら入りません。と言っても貴方にはわからないでしょうね」
強く彼を睨み悲しげに微笑む。視界がにじみ声が震える。
「そうかもね……じゃあ嘘つきの俺とはさよならする?」
「え……」
「キミの力は魅力的だけど、他の手段がないわけじゃない。縛る気はないよ」
目の前でくるっとステッキを回されると、明かりがつきどこからともなく契約書が現れる。
そこには私の名前が記されていた。
)契約を破棄するってこと……?)
特別な力。みんなに狙われるほどの存在だと、そう言ったのはフェンさんだ。そのために手の込んだ罠で、私を陥れたのはフェンさんのはずだった。
(縛る気はない?)
あまりにもあっけない結末。
放り捨てるように投げかけられた言葉をリフレインすると、胸が焼けつくように熱くなり息が詰まる。
「なんなの…………どうしてこんな気持ちにさせるの?)
「どうするかはキミしだいだけどね」
悔しくて怒りで震えるのに、なぜかぽっかりと穴が開いている。大きく息を吸って気持ちを落ち着かせながら、重大なことに気がつく。
契約を破棄したら、私はまた他の王子たちに訳のわからない奪い合いをされるということだ。
人を信じないようにするにはこの先、フェンさんの策略にはまらないようにするには……
(私が利用すればいい)
「契約は続けます。ただし、私の代わりに天月さんがですけど」