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魔界皇子と魅惑のナイトメア

第5章 契約と思惑


フェンさんは首を傾ける。

「へえ、いいの?天月ちゃんを売ることになるけど」
「はい」
「やめとけばいいのに……信用失うよ」

苦笑するフェンさんにいつもの気の緩む甘い笑みはない。
私の考えなど、本性を現した彼の前ではベビちゃんのままごとかもしれない。そう思うと、足元から冷えていくのを感じる。
けれどこれが私の覚悟。
天月さんに何を言われたとしても、たとえそれが酷いことだと罵られたとしても、この運命から自分の選んだ道から逃げないし逃げられない予感がしていた。

魔法で灯されているのか、桃色の明かりが微かに揺れる。
背にした窓から夜風を感じるのに、冷たさはなく温度は一定だ。


(今は何時だろう……)


夜更け具合を知りたくても、外を見ることはできない。
景色が綺麗だと言ってくれた彼から、窓に背を向けさせられているからだ。

「そろそろ離してもらえませんか」
「どうしようかな」
「契約は天月さんに引き継ぐと言いましたよね。他に何が……」
「契約の誓いがまだだから」


(誓い……?)


「契約は天月ちゃんに引き継ぐんだから、誓いをしてもらわなきゃね。本当は天月ちゃん本人にしてもらわなきゃいけないんだけど今いないし……キミが代わりにしてあげた方が喜ぶと思うよ。あ、この間は契約の代わりに握手してくれたけど、今日はしてくれなさそうだよね」

態とらしく微笑みながらフェンさんは首を傾げる。

「やり直す必要があるんですか、前にしたなら……」

ぐいっと引き寄せられ、憎らしいほど美しい顔が近づく。優しく、色気の漂う笑みで見つめられ一瞬で頬が熱くなる。

「本来はね、契約主の身体のどこかにキスをするっていうのが決まりなんだ」

この前の握手では足りないと彼はそういう。

「それにキミは天月ちゃんに引き継いでもらうんだからできるよね」


(つまりどこでもいいから、キスをしろってこと……?)


今はそんな気にはなれない。
例え手だろうが頬だろうが、フェンさんにキスなんて考えられなかった。

「天月ちゃんに引き継いでもらうんだよね」


(この笑顔……)


「これもまた嘘なんじゃないですか?」
「キミだって、契約のやり方には身に覚えがあるんじゃないかな」

意味深な笑みにぞくりとする。

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