第5章 契約と思惑
「見事にフェンさんに煽られましたね。ガイさんが出てくるところまで、よんでいたのでしょうか」
天月さんの言葉を思い出していると、ロイさんの言葉で意識が戻る。そして、そのロイさんの苦笑混じりの言葉に目眩を起こしそうになる。
(待ってじゃあ……私の部屋に忍び込んだ時からこうなるつもりで?ううん。そんなはずないフェンさんは……)
「ベビちゃんがあんまり無力で、哀れで可哀相だったからかな。ほら、可哀想と可哀相って似てない?」
あの時フェンさんは私が泣き止むまで何も言わずそばにいてくれた
「契約が本物になれば、誰もベビちゃんに手出しできなくなる。つまり俺が守ってあげられるってこと。だからベビちゃんがよければだけど、モデアの国と契約するのはどうだろう?」
あれが嘘だなんて思えない。信じれなかった、信じたくなかった……天月さんだったらなんと言うのだろうか?
「グラス、フェンさんの部屋に変わったことは?」
「驚くほどいつも通りかと……ああ、ですがいつもより頻繁に手紙が届いていたかもしれません」
「モデア国からでしょうか」
ロイは考え込む。
「なるほど……
モデアでは今時期国王をフェン様ではなくキアラン様に譲ると言う噂が、濃厚になってきています。その件の知らせかもしれませんね」
「モデアの王位継承問題……
やはりフェンさんがこの学院に来た理由と関わりがあるんでしょうね。確かモデアで起こした厄介ごとがきっかけだったとか……その後一度も帰国の許可が出ていないと聞いています」
「私もそう聞き及んでいます。何度も、このコルド島から脱走を心みられたことはあるそうですが……」
「力及ばずですか。なるほど、その力が葵さんというわけですね。フェンさんも跡目争いがいよいよとなると、なりふりかまってられないのかもしれません」
「…………どうでもいい」
めんどうそうな声が憶測でしかない話を止めようとする。
「ガイさん、ですがそうだとしたら……フェンさんはやはり」
ディリリリリーーッッ!
突然持っていた防犯ベルが鳴り出した。
「誰ですか!」
「ごっごめんなさい」
物陰から出ると、話しかけられる前に謝る。
「盗み聞きするつもりはありませんでした。偶然なんです防犯ベルを取りに来ただけなんです! 本当にごめんなさい、誰にも言いません!失礼します!」
