第5章 契約と思惑
授業が終わり、すぐには待ち合わせの場所へは向かわなかった。
……理由は防犯ベル。
葵は天月がちゃんと付いて行くのか心配しながら、Sランク専用ラウンジの扉の前まで来ると、緊張しているのか顔が強張っていた。
コンコンコン
ノックの後、扉をそっと開けた。
中には誰もおらず急いで駆け込むと、テーブルの上に置きっぱなしになっていた防犯ベルを掴む。
早く出ようと踵を返したその時----
ガチャ
(あ、誰か来た! 天月さんじゃない)
後ろめたさからなぜか隠れてしまった。
「ど、どうしよう……なんで隠れたんだろう。私…… 説明したらわかってもらえるかもしれないのに……)
そっと物陰から顔を覗かせると----
「……」
(う……ガイさんがいる)
他にもSランクのロイさん、ロイさんの従者のグラスさん。それからガイさんの忠実な従者であるジャスパーさんが集まり、話始めていた。
(このメンバーは………隠れて正解だったかも…… でもこのままじゃ待ち合わせに遅れるし、どうしよう)
物陰に背を付け途方に暮れる。
深刻そうな会話が聞こえ始めると、さらに出にくくなっていた。
(まずいなこれじゃ盗み聞きしてるみたい。どうか重要なことは……)
「まさか全て彼の筋書き通りだったなんて」
「面目もございません。フェン様は最初から、葵さんの力が目的だったので……」
ロイとジャスパーの声が聞こえる。
「……え?」
思いがけない名前に頭の中が真っ白になる。聴きたくなくても耳に入ってくる会話に、鼓動だけが強く打ち付けていた。
(…最初から力を使うことが目的だった?)
聞こえてきた会話を反すう(はんすう)しながら、フェンさんの顔を思い浮かべるけど……
一時停止した頭では何も考えられない。
「申し訳ございません。ガイ様」
ジャスパーに名を呼ばれた彼は、ソファーで頬杖を付き、無言のまま本のページをめくっていた。
「……」
「すぐに気づくべきでした。わかりやすい場所にしかも見せつけるように付けられた口付けの痕。女性関係にはつねに期しているフェン様にはあり得ない行動かと」
ジャスパーさんの言葉に思わず息を飲む。そろりと首元に触れた指先が、驚くほど冷えている。
「お前は考えが甘いんだよ。他人なんて信じるな。100%嘘だと思え」