第5章 契約と思惑
「はあ……」
ここは一般の生徒が立ち入らないSラウンジだった。
葵の後ろで天月は盛大な溜息を吐いている。
「うわっ!」
葵は下で蓑虫みたいに包まっている男性に躓いた。
「申し訳ございません」
「そちらは私の主である、リント様です」
「リント………さんですか」
天月は従者である男性に問いかけた。
「はい。ベルフェ国の王子、リント・ベルフェ様であらされます」
「ふーん」
葵は駆け寄ってきた男性に助け起こされていた。
「お怪我はありませんか?痛いところはありませんか?」
大丈夫です」
「よかった。あ、私はティーノ。リント坊ちゃんの従者をしております」
天月はここにいるのが気まずいのか、その場を立ち去ろうと踵(きびす)を返すと、背中越しにヴァイオレットのはしゃぐ声が聞こえてくる。
「葵ちゃん、あ〜、モデアの国と契約してくれてありがとう。今日も可愛い」
「ヴァイオレットさん」
「でもフェンに困ることされたら、この防犯ベルを鳴らしてね。あ、天月ちゃんのも……!」
そそくさと廊下に出ようとするのを見たヴァイオレットは、悲しそうに瞳を揺らし話を戻した。
「ボタンを押すと魔法でーーー」
ーーーディリリリリ!!
けたたましい音にブルリと体を揺らし耳を塞ぐ。
うるせえー
つい足を止めてしまう。きっとそれがいけなかったのだ。
目の前に来た男は、ぐいっとウチの腕を掴みけたたましい防犯ベルの音を止めるために歩く。
「こんなの必要ないのに」
「フェンさん」
3人の話し声を遠くで聴きながら、嫌そうに顔を曇らせていた。さらに……
「ねえー、天月ちゃん……えっ無視?」
体が後ろに引っ張られたと思えば、片腕で抱き寄せられる。横目で葵を見ると、彼女もフェンに片腕で抱きしめられていて嫌なのか逃れようとあがいている。
「……」
もう何を言ったところで無駄だと思い、口を黙み無言を決め込む。
「俺、優しくするよ♪」
「フェンが言うとやらしく聞こえる」
不意にリントが起きてふと呟いた。
葵とフェンとヴァイオレットが会話していると、突如本を閉じたのか大きな音を立てた青髪の男性は、ご立腹のようだ。
フェンの手が緩まった瞬間、天月は彼の腕から抜け出し逃げることに成功した。
「あーあ、逃げられちゃった」