第5章 契約と思惑
それはきっといつもとは違う、嘘偽りのないフェンさんの裸の気持ちを感じたからだ。
「ごめんね。落ち着いたところで話を戻して悪いんだけど、ガイが言ったことは本当だよ」
「えっ!」
「どこかの所有物になれば、他の国の者は手出しができなくなる。あれは本当なんだ」
「契約の話ですか?」
「契約が本物になれば、誰もベビちゃんに手出しできなくなる。つまり俺がベビちゃんを守ってあげられるってこと」
フェンがふっと笑う。
「力を必要としていない俺なら、キミを守ることができる。俺は魔界の覇権(はけん)争いに興味ない。だからベビちゃんがよければだけど、モデア国と契約するのはどうだろう?」
「でも、私だけ良い思いをするのは……そんなことをしてフェンさんはみんなになんか言われませんか?」
「こんな時に俺の心配? じゃあそうだな……デート係はどうだろう」
「で、デート係!」
「キミがなってくれるなら、俺もいちいち女の子を選ばなくてもよくなるでしょ。そうそうレディも心配するメリットもあるね」
「契約します……」
ふーん。契約しちゃったんだあ。ふーん……
別にいいんじゃない?ウチには関係ないし」
興味がないのか呆れたように言う。
「そ、それが……」
「はあーーーっ!」
すごく言い辛そうに重々しく口を開いた葵にありえないと天月の叫び声が教室内まで届いた。
「なんでウチを巻き込む訳?絶対関係ないよね!?」
天月は静かな怒りを言葉に乗せて葵に向ける。
「ごめん」
「ごめんじゃないし、どういうつもりなの」
「本当にごめんなさい。私どうしてもフェンさんと2人きりは無理って思ってその……」
「思って……じゃないし、なんでそう勝手に決める訳?無理なら契約すんなよ。それと、他の誰かが自分のことを守ってくれるなんて思うな。自分の身を案じてるなら、自分を守る術ぐらいつけろ。じゃないとお前のような奴はすぐに死ぬ」
「本当にごめんなさい。でも一生のお願い!」
そう言いながら手を合わせ頭を下げる。
天月は教室に戻るべく葵に背を向け歩き出す。葵は泣きそうな顔を俯かせた。
「待ち合わせと時間、教えなよ」
「……え」
「一緒に行くんじゃないの?付いて行かなくてもいいなら……」
「天月さん」
「…………何」
「ありがとう」
「……別に」