第5章 契約と思惑
教室にて……
……転校生が、フェン・モデアの専属デート係に?
朝から学校中を震撼(しんかん)させるそんな噂が、飛び交っていた。
「ちょっと聞いた? フェン様の……」
「嘘でしょ。あの転校生が」
「私だってフェン様とデートしたことないのに、どうして?」
女子生徒の拡散能力は、大流行ウイルス並で、その日の夕方までには王立コンコルディア学院で知らないものがいないまで噂は広がっていた。
そんな生徒たちを余裕な表情で見ている天月だが……
「ごめんなさい!」
葵が教室に入って来て突然謝ってくる。
「はあ?」
頭を下げながら葵は、申し訳なさそうに顔を歪め天月を見た。
「次はウチと授業違うでしょ。早く行かないと先生に叱られるよ」
そう言って教卓に視線を戻す。
もう葵に視線を戻すつもりはないようで、早く行ってくれ。と言いたげにオーラを出す。
「視線が鬱陶しいんだけど」
ぎろりと睨みつけると、葵は天月の手を引っ張り廊下に連れ出した。
「じつはあの時……」
それは遡ること1日前……
「どうして……助けてくれたんですか」
「……ん?」
すぐに声が返ってきて、ゆっくり身体を起こす。
距離を取りながらも、沈黙が続く前に口を開く。
「フェンさんもガイさんと同じように魔界の王者になりたいんですか」
「あはは。俺が魔界の王座にですら興味があると思う? モデアの王にですら関心ないのに」
「じゃあどうして?」
「どうして、か。ベビちゃんがあまりにも無力で、哀れで可哀相だったから。ほら、可哀想と可哀相って似てない?」
こんな時に妙な持論を出してくるゆるさに思わずふっと笑ってしまう。向けられたのは不思議と心を和ませる眼差し。
「優しい人だったんですね」
「今までどう見えていたのか気になる言い方だ」
「嘘つきで迷惑な人。でしょうか」
「それも間違いじゃないけどね」
酷いことを言われたはずなのに、フェンさんは笑う。
「でもクチュンッ!」
夜風で冷えていたのかくしゃみが出る。その様子に今度はフェンさんがふっと吹き出す番だった。
「くしゃみも赤ちゃんサイズだ」
距離を詰められ、ふわり。とフェンさんのジャケットが肩に掛けられる。それを暖かいと感じるのはジャケットのせいじゃない。並んで座っていても全く離れたいとは思わない。