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魔界皇子と魅惑のナイトメア

第1章 拝啓赤き月へ


……けれど。不意に頭がぼーっとしてきた。

「もう一度だけ聞く。『"貴様の名を、俺に教えろ』」
「……吉田葵」


(勝手に口が動いた?!)


『"この場所へはどこから来た"』

答えたくないと思うのに、ペラペラと住所を告げてしまう。


(なんで?私は話すつもりないのに……っ)


「なんだ、その地名は、聞き覚えがないな」
「………信じられないが、かの世界からの闖入者(ちんにゅうしゃ)の可能性がある」
「ニャア!」
「!」
「あ、ねこ」


(ルル!)


飛び出してきた藍猫の姿を見て頭の中の靄(もや)が一気に晴れた。
クリアになった思考で真っ先に「逃げたい!」と感じる。
私は素早くルルを抱き上げ、謎のコスプレ集団に背を向けて走り出す。

「あっ、待ってください!」
「はあ……っ、はあ……!」

一心不乱に走っていると、やがて大きな門が見えてきた。


(とにかく、あの変な集団から少しでも離れないと! というか夢なら早くさめて……!)


余計にルルを抱く腕の力を強めて、門をくぐろうとした ーーーその時。

「待ってください!」
「!?」

声は頭上から降ってきた。
まさかと思って仰ぎ見た先に、私を追ってきた5人が浮かんでいた。


(浮かんでる?! 何このファンタジーな夢…… あ、でも、前に気を使って飛んでる人見たことあるから、こんな夢見てるのかも)


さっき最も怖いと思った人が、真っ先に私の前に降り立つ。

「どこへ行くつもりだ。手間をかけさせるな」

また、目の前に赤い双眼。
見ていると自分の意思が簡単に揺らいでしまいそうになる不思議な色。

「っ……近寄らないでください」
「……随分な物言いだな」
「ストップ、睨んじゃだめだよ。女の子には優しくしなきゃっていつも言ってるでしょ」
「既に魔力の増幅を実感したせいか、随分余裕があるようだな。普段以上に、顔が緩んでいるようにも見えるが」
「まぁ、たしかに……今ならなんでもできそうではあるね。触っただけでこれなら、キスなんかしたらどうなるのかな」


(はい???)


「おい、触れるな」
「だから、そんな怖い顔しないでって」
「……」
「葵さんと伺いましたか?」
「!」
「あ……、驚かせてしまいすみません。そんなに怯えなくても大丈夫ですよ。僕たちは、あなたに危害を加えるつもりはありません」
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