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魔界皇子と魅惑のナイトメア

第1章 拝啓赤き月へ



「……い、大丈夫? おーいってば」

ふわりと鼻先をかすめる甘い甘い芳香の正体が気になってまつげが震えた。

「ん……」
「あっ、おはよう。お目覚めかな?」
「えっ誰!?」


(というかここどこ?」

慌てて両ひじをついて頭を持ち上げ、周囲に視線を巡らせる。
目の前に聳え立つ洋館のような建物。
月明かりに照らされた冷たい芝生。
そして「なんのコスプレですか?」と尋ねたくなるような、きらびやかな風貌の男性。

「………夢?」
「いいね。夢ならなんでもやりたい放題だ。俺と遊ぼうか?
ーーー可愛い闇色の瞳を持つ、お嬢さん」


(うん、間違いない。夢だこれ)


確信した私は、まだ少し戸惑いながらも起き上がるため差し出された彼の手を握る。

「ーーー!」
「えっ!?」

指先が触れた瞬間、夕闇を思わせるような薄紫色の炎が彼の全身を包み込んだ。


(え、なにこれ!?)


「これは一体…………?」
「フェン、すごい魔力」
やはり、今の魔力はお前のものか。一体なにをしている」


(わらわらとコスプレ集団が………)


「またこんな場所で女と………、ん? 貴様、なんだ」


(………うっすごい睨まれてる)


きつい眼差しの青年は、尻餅をついたまま動けない私の前にしゃがみこむ。


(ち、近いんですが……)


「その漆黒の瞳、まさか」

「フェンの魔力をもたらしたのは、この女とでもいうのか?」
「はい? 魔力?」
「ガイもトアも、落ち着いて。とりあえず………立ったほうがいいよ」

独特のゆるい雰囲気で差し伸べられた手をーーー

「ありがとうございます」

つい考えなしに掴んでしまう。


(え、また!?)


「へえ……」
「すごい光……、いえ、魔力の炎」

謎すぎる現象に驚いた私は即座に手を引っ込め、よろよろと自力で立ち上がる。

「はは、ちょっと、言葉を失っちゃうな」
「この人、すごいね」
「ガイさん、彼女はもしかして」
「ああ、間違いない。おい、女」
「……っ!」

無遠慮な一歩をこちらに踏み出した彼の僧坊が迫る。


(あっ………この人の瞳、眠る前に見た真っ赤な月の色)


「名乗れ」


(え……なんかちょっと、私の夢の登場人物のくせに偉そう……)


なんとなく素直に答えるのは癪で黙りこむ。

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