第1章 拝啓赤き月へ
「ついてこい」
……どこへ?
「案内がいらないのなら、俺はもう行く」
「あ!いります!行きます!あの……天月さんは?」
「ん?天月……ああ、あの女か、彼奴も一緒だ」
「そうですか」
「行ってらっしゃい。トア、葵」
"トア"と呼ばれる青髪の人は、私が通り過ぎるまで、ドアを開けたまま支えてくれたのだった。
一方部屋を出ると、顔をしかめた天月ちゃんがいて少し身を引く。
「あ、お待たせしました」
「……」
(え!無視!?)
階段を下りていくと、人気のない廊下がつづいていた。
「質問は受け付けないし、同じことは二度言わない」
「はい、お願いします」
「コンコルディアの学生寮は2つある。トラディス寮と、スノー寮だ。ここトラディス量の3階と、さっきまでいた4階は、基本的にSランクとその従者しか入れない」
「"ランク"……というのは、何なんですか?」
「質問は受け付けないと言っただろう」
「あ、そうでしたね。すみません」
「……この学院は、魔力の強さで生徒たちにランクを割り振っている」
天月はその後の事を右から左に聞き流し、別の事を考えていた。横を歩いていた葵は天月をじっと見ている。横からの視線に顔をしかめた。
「最も魔力があり、なおかつ古代魔法を使用できるのは、Sランクに属している」
その下にA・B・c.と続き、Cは再開のランクらしい。
「いつまでもCランクから這い上がれない者は、学院から追放された事例もある」
「厳しい世界ですね……」
「当然だろう。魔力とは使い方を誤まれば世界すら壊すことができるからな)
「2階はAランクの生徒や女子生徒の居室がある。お前たちの部屋も用意されていたはずだ」
「あ、そういえばここ、通りました」
「はあ………、お前と会話したいわけじゃない。そういう無駄な報告は、心の中で言え」
「…………」
「………返事はしろ」
「あ、すみません」
「1階はBランクの男子生徒の居室と、大浴場だ。それから、Bランク以下が使用していいラウンジがある」
不意にどこからか良い匂いが漂ってきた。
「なんだ、急に表情を生き生きさせるな。気味が悪い」
葵はそう一喝される。
この匂いは近くに食堂があるのだろう。
「すみません。この匂いで、空腹を思い出して」
「食堂はこっちだ」