第1章 拝啓赤き月へ
「うん?キスの時、目を開けているタイプ?」
青髪の男性に連れられた部屋の前で立っていると、そんな声が聞こえてくる。
そこで待っていろ。と言われたので壁に背をもたれさせ待つ事にした。
「こんなところで何をしている」
少し苛立ちを含んだ声で、銀色の髪をした長髪の男性に声をかける。
「おとりこみ中?」
葵は現れた2人の男性に安堵した。
完全に信用できる存在ではないが、目で助けを訴える。
「見てわかるなら、邪魔しないでくれる?今イイところだから」
大股で青い髪の人が、無造作に葵の腕を引っ張った。
「馬鹿を言うな」
膝の上から床に落とされた葵は、ほっと顔を緊張から緩ませた。
「おっと、大丈夫?ねえ、俺の膝の上に戻っておいでよ」
「い、いえ、床の座り心地もなかなかなものですから!」
「はは、面白い子だ」
「フェン、古代魔法の使用はSランクの授業のみと決められているだろう」
「うーん、トアくんは真面目だねえ」
「ねえ、名前なんだっけ」
「名前?」
「うん、名前」
「あ……、吉田葵……ですけど」
「俺は、リント」
「リント……さん」
「そう」
リントと名乗った青年と葵は、言い合いをする2人をそっち抜けで平和な会話を交わす。
「あーあ。トアくんのせいで興が冷めちゃった」
「はあ……、こちらはお前のせいで、講義前の貴重な時間を無駄にした」
「酷いな、はは
まあいいや。葵ちゃんじゃあね」
こちらに近づいて来る足音に目を向けると、白銀の髪の男性が私に近づき目を細める。
「キミも、葵ちゃんと来た子だよね」
「まあそうなりますね」
「天月ちゃんだったかな?」
ウインクがつきそうなぐらいの迫力、色気を出しているこの男。
かなり苦手なタイプである。
「自己紹介まだだったよねえ?オレはフェン。よろしくね」
「あ……ヘンさんね」
「ヘンじゃなくて、フェン。フェン・モデアだから」
「え、ヘンナモノ」
よくわからないと首を傾げる。
「うーん、困ったなあ」
困ったと言っているが、あまり困ってなさそうで、フェンは根気よく自分の名前を伝える。
「フェン・モデア」
天月もう一度と耳をフェンに傾けたまま頷く。
「へ。じゃなくて、フェ。だから!」
「……ん?」
「うーん、まあいいや。じゃあまたね。天月ちゃん
♪」
彼は手を振って去っていく。