第10章 烏野の守護神
レシーブ力は一朝一夕でどうにかなるものではない。
でも、せめてリベロに教えを乞う事が出来たなら。
体育館へと入る入口で、シューズの紐を触りながら思案する。
『あ、あれ?』
余所事を考えていたからだろうか、シューズの紐が絡まってしまった。先輩達が一足体育館へと入っていくのを視界の端に捉えながら、何とか絡まる靴紐を解いて結び直す。
体育館への入口の扉に手を掛けながら、段差を上がると体育館の中から賑やかな声が聞こえる。
視線をやると、そこには見覚えのある黒い髪のツンツン頭。
『····ぁ、西谷····先輩?』
私に背中を向ける形で立っている西谷先輩。私の小さな声は届かない。
「あの根性無し····!!」
「こらノヤ!!エースをそんな風に言うんじゃねえ!」
「うるせぇ!根性無しは根性無しだ!」
「待てってばノヤっさぁん。」
「前にも言った通り、旭さんが戻んないなら俺も戻んねぇ!!」
田中先輩と言い合う西谷先輩の怒ったような大きな声。背を向けていた体をこちらにむけて体育館の入口へとやってくる。
西谷先輩は、驚いて固まる私を視界に収めると、先輩も驚いたのか目を見開いて。それからすぐに視線を外して体育館を出ていってしまった。
『西谷先輩!!』
「ちゃん、西谷の事知ってるの?」
『はい、あの。私、ちょっと行ってきます。』
「え、ちゃん!?」
スガ先輩の声を背中に聞きながら、出ていってしまった西谷先輩を追いかける。相変わらず歩くのが早い人だ。
少し走って、開けた所にある植木の近くで西谷先輩の姿を捉えた。
『西谷先輩!!』
「·····、お前、うちのマネージャーだったんだな!」
そう言って振り返って笑った西谷先輩は、ついこの間に会った時の真っ直ぐな笑顔より少し陰って見えた。
『西谷先輩は、バレー部のリベロだったんですね。』
「何で俺がリベロだってわかった?小っちぇえからか?」
『いいえ。わかります。』
西谷先輩のTシャツの裾から伸びた腕を見る。そこにあるのは練習の為についたであろう痣がいくつか。
西谷先輩の腕をそっと握る。
平均よりも小柄な体、細い腕、小さな手。素直で真っ直ぐな西谷先輩のこの体には、いったいどれだけの熱が詰まっているのだろうか。