第10章 烏野の守護神
青葉城西との練習試合を終えた翌日。
チームについて聞きたいことのあった私は、早めに部室へと移動して着替えを済ませ、澤村先輩達の姿を探していた。
外は大分暖かくなってきた。そろそろジャージを着ているのも暑くなってくる頃だ。手のひらの中ほどまで来ていた袖を腕まで捲る。いつもの猫のヘアゴムが腕でチャリっと音を立てて揺れた。
青空の下、部室棟の近くで辺りを見回していると、バレー部の部室から澤村先輩とスガ先輩、田中先輩が一緒に出てくるのが見えた。
こちらが気づいたのと同時に、スガ先輩がすぐにこちらに気づいてくれて駆け寄ってくる。私も慌てて、スガ先輩へと近づいた。
「ちゃん、こんなとこでどうしたの?部活行かないの?」
『えっと、先輩達に聞きたいことがあって。』
「聞きたいこと?どうかしたのか?」
澤村先輩が首を傾げた。
『はい。烏野のバレーのチームのことなんですけど。あの···、うちのチームには、リベロはいないんですか?昨日の練習試合の時もリベロがいなかったので。』
私がそう尋ねると、3人の間に、何となく悲しい雰囲気が流れたのがわかってしまった。
もしかして、聞いてはいけないことだっただろうか?
『あ、あの、ごめんなさい。余計なことを。』
「あ、あぁ、違うんださん。ちゃんといるよ、烏野には守護神が。」
『····守護····神。』
「ちょっと、他のメンバーと色々あって。謹慎になってたんだ。でもっ、もうそろそろ帰ってくる筈なんだ。」
スガ先輩が、どこか困ったような笑顔で私に告げた。
ずっと不思議に思っていた。
リベロがいなくても確かに試合は可能だ。でも、リベロがいることで戦術の幅も広がるのは明らかだ。
音駒で、リベロの衛輔君を見てきたからわかる。
背中を守ってくれるリベロがいるということは、戦術的にも、精神的にもとても大きなことなのだ。
それが烏野にはいない、それが何故なのだろうかと。
『そう、だったんですか。』
自然と歩き出した3人に付いて、私も歩き出す。
このチームにもちゃんとリベロはいたのか。
昨日の練習試合で思った、烏野チームのレシーブ力について。
ボールを落としてはいけないこの競技で、やっぱり重要なのはレシーブ力なのだ。