第9章 練習試合 対青葉城西戦
ふと訪れた静寂に、私は視線を及川さんの手元から顔をへと移した。すると、今までの笑顔とは違う驚いた顔。
『及川さん?』
「え?あ、····や、驚いて。」
「男ってのは、努力してる所を見破られると恥ずかしい生き物なのよ。」
「ちょっと、まっつん。余計なこと言わないでよねー!」
『あ、ご、ごめんなさい。』
「ちゃんも謝んないで!居た堪れなくなるっ!」
ケラケラと笑いながら、じゃれ合っている及川さんと岩泉さんと松川さんと花巻さん。それを笑いながら見つめる国見さんと金田一さん。及川さんはやっぱり周りを巻き込む何かを持っている。
及川さんを中心によく纏まったチームに、微笑ましくなりながらも脅威を感じた。
と、まだじゃれ合っている青葉城西のメンバーの背後で帰り支度を始めている烏野メンバーが見えた。そろそろ私も行かなくては。
『私そろそろ行きますね。今日はありがとうございました。タッパは捨てて貰って大丈夫です。』
では、と頭を下げて背を向けて1歩足を出す。すると、ふと優しい力で腕を掴まれる。振り返ると、すぐ近くに及川さんの顔。急に近づいた顔に驚いていると、及川さんの顔がさらに近づいて耳元に。
「ちゃん、またね。」
すぐにパッと離された手。離れていった及川さんの顔。
今までよりも低い声で耳元で囁かれたその声で、顔に熱が集まるのがわかる。反射的に耳を抑えたけれど、顔を隠すべきだっただろうか。
私の腕から離れた及川さんの手は、今はヒラヒラと私に手を振っている。赤く染っているだろう顔を見られたくなくて、慌ててまた頭を下げてから背を向けて、今度は小走りで移動する。
顔が熱い。おちゃらけた及川さんと、挑戦的な笑顔を向ける及川さん。どちらも彼の本質なのだろうそれに翻弄されてしまった。
何でもない何でもないと、自分に言い聞かせるように頭を振っていつもの自分を取り戻す。うん、大丈夫。
ベンチの側に置かれていた自分の荷物を持って、まだこちらを見ていてくれた青葉城西高校のレギュラーメンバーの人達に手を振って烏野メンバーと一緒に体育館を後にした。