第9章 練習試合 対青葉城西戦
side 及川徹
「はぁーあ!ちゃん、めちゃくちゃ可愛かったなー!」
練習試合を終えてすっかり熱気も冷めた体育館の後片付けを始める。ネットをグルグル巻きながら思い出すのは、あの小さくて可愛かった烏野の新しいマネージャー。
「あの烏野の新しいマネージャーか?」
「そうそう!及川さんの彼女になってくれないかなー。」
「ほんっとこりねぇな、お前!」
「あ痛!岩ちゃんボール投げるのやめて!」
「···ハァー。まぁ、整った顔してたしな。ちょっと変わったやつだったよな。」
「岩ちゃんって、本当見る目ないよね!」
「うるせぇ!お前に言われたくねぇ!」
変わってるなんて、そんなんじゃない。
あれは
「だってあの子、とんでもないよ。」
あの子の視線を思い出すと、背筋にスっと冷たいものが流れる気がする。
「あ?」
「ちゃんは、意識してるのかしてないのかわかんないけど、何回も視線が右足に向いてた。」
「右足?···クソ川てめぇ、捻挫は大丈夫だったんじゃねぇのか?」
「もちろん、大丈夫だったよ。お医者さんのお墨付き。」
でもさ、と続ける。
「やっぱり捻挫とかした後って、どうしても体が痛みの記憶を覚えてる。無意識に庇ってたんだろうね。」
「それに気づいたってのか?···そんなこと、出来るもんか?」
「普通は無理だよ、だって、俺ですらわかんないんだから。」
恐らく無意識に庇っていたであろう右足。それはきっとほんの僅かな違和感。時と共に、自然と治っていく程の些細な癖。
聞いた事がある。そんな些細な体の動きにすら敏感に気付く程の目を持つ人がいることを。
「飛雄ちゃんの近くにあんな子がいるなんてね、天才ってだけでむかつくのに、ちゃんがいるってので余計にむかつく。」
「俺は女にキャーキャー言われてる奴のがむかつくっ。」
「僻みはみっともないぞ!岩ちゃん!···あ、痛!ボールぶつけないで!痛い!」
それに、と心の中で思う。
沢山練習したんでしょうね、と言ってふわりと微笑んだ彼女。
人は上辺しか見ない人の方が多い。努力してきたことを、天才と一言で片付けられることがほとんどだ。なのに、彼女はさも当たり前のように天才を否定した。
「本当、面白い子だよね。」
彼女への興味は尽きそうにない。