第9章 練習試合 対青葉城西戦
「うちの後輩をたすけてくれて、ありがとう。···行きましょう、ちゃん。」
『あ、はい。及川さん、本当にありがとうございました。』
「いえいえー。」
潔子先輩に手を引かれて、烏野のベンチへと移動しようと足を踏み出す。
「あ、ちゃん。」
『え?』
と、及川さんに呼び止められて、足を止める。
にっこりと笑った及川さんの顔。今までの優しい微笑み方じゃない。少し挑戦的なその笑顔に背中がゾワリと粟立つ。
「アップしたら俺も入るから。·····いいもの見せてあげるよ。」
声が、出ない。
まるで、猛獣に見据えられたようなそんな視線。
この人やっぱり、上手く言えないけど、凄い人だ。
及川さんの言葉を聞きながら、潔子先輩に手を引かれるまま背中を向けて烏野メンバーのいるベンチへと向かった。
3セット目が始まる。
日向くんの速攻がよく決まっている。
そのお陰で、田中先輩のスパイクの決定率も良さそうだ。
影山くんのトスは相変わらず針の穴に糸を通すような繊細さを保ち続けている。
全体的にレシーブミスはあるものの、よくボールを繋いでいると思う。ブロックも、蛍の長身と冷静さが上手く生かせている。影山くんも、トスだけでなくブロックも上手なようだった。天才肌というのはこういうものだと実感する。
第3セット目、烏野の勢いは止まらず、気づけスコアは24-20。烏野のマッチポイントだ。
青葉城西のベンチへと視線を移すと、監督と及川さんが話しているのが見える。内容はもちろん聞こえない、でも及川さんが出るということを話しているのだろう。
及川さんが監督の元を離れたと同時に、ピーッという選手交代の合図の笛が吹かれた。次は及川さんのサーブから始まるということだ。
「いくら攻撃力が高くてもさ·····、その"攻撃"まで繋げなきゃ意味ないんだよ?」
2階から、ピンチサーバーだと思う、という声が聞こえる。
そんなんじゃない、あの人は全然そんなんじゃない。
及川さんは、こちらをチラリと見た後、蛍を指さした。
あれはレシーブの苦手な蛍を狙うという"宣言"だ。
ピーッという笛の音の後、及川さんの手を離れたボールは綺麗に高く上へと放られた。助走をつけて飛び上がった及川さんの手によってサーブは蛍の元へと打ち込まれた。