第9章 練習試合 対青葉城西戦
及川さんに連れられて体育館の中へと入ると、試合は既に3セット目に入る所だった。ちょうど、コーチの所に両チームが集まっているのが見える。大分外にいる間に時間が経ってしまっていたようだ。
「オイ!!クソ川!!てめぇ、何ナンパしてきてんだ!!」
「あいたっ!岩ちゃん痛い!!違うって!ナンパされてた子を助けたのー!!」
「ああん?」
体育館の入口近くで集合していた青葉城西のチームの視線が一気にこちらに集まった。
さっき試合の最中に見ていた岩泉さんが大股でこちらまで歩いて来ると、小気味よい音を立てて及川さんの頭をスパァンッと叩いた。
その後こちらに向けられた視線に、体がビクッと動いてしまうのを止められなかった。
「お前、烏野のマネージャーだよな?」
『あ、あのっ·····。』
「岩ちゃん、顔がこわーい!!だからモテないんだよ!」
「あぁ!?うるせぇクソ川!!」
『ご、ごめんなさい。私が、男の人に絡まれてしまって、及川さんが助けてくれて。無駄な時間を過ごさせてしまいました、すみませんっ。』
「あぁ、もう、ほらー。ちゃん謝らないで。ほら、こういうの役得って言うんだから。····もー岩ちゃんの顔が怖いからだよー!」
「わ、わりぃ。大丈夫だったか?」
怖い顔から一転。少ししゃがんで合わせてくれる目線、すっと下がった眉。びっくりしてしまったけれど、本当は怖い人ではないのかも。
『あの、はい。』
「あ、ほらちゃん、お迎えが来たよ。」
『え?』
私の背後を見てそう呟いた及川さんの視線を追うように後ろを振り返ると、烏野が使っているベンチからこちらに走ってくる潔子先輩が見えた。
「ちゃんっ。遅いから心配した。大丈夫だった?」
『はい、あの、帰り道に男の人に声を掛けられて。でも、及川さんが助けてくれました。』
及川さんを見上げると、ピースサインをして指をちょいちょいっと曲げている。
『心配お掛けしてごめんなさい。』
「あぁ、いいのよ。」
潔子先輩が、私の頭を撫でてくれた。
いつもの潔子先輩。いつもと違う場所、違う人達に起こってしまった怖いこと。でも、潔子先輩のお陰でなんだかホッと落ち着いたような気がする。