第9章 練習試合 対青葉城西戦
「怖かったよね?大丈夫だった?」
背の高いその人は、そう問いながら少し屈んで私と目線を合わせてくれた。
『だ、大丈夫です。ありがと、ございます。』
私の答えを聞くと、優しく微笑むその人。
少し落ち着いて、目の前のその人の顔をマジマジと見る。
「ん?」
何だかこの人見たことがある。どこでだっただろう。
この白いジャージと、整った顔。
えーっと、そうだ、この人
『·····おいかわ·····とおる·····。』
「あれ!?及川さんのこと知ってるの?」
『えっ?あの。』
つい口に出てしまった。慌てて口を抑えたけれど、出てしまった言葉はもう戻らない。不躾に名前を呼んでしまった。
『ご、ごめんなさ、つい不躾に呼び捨てで名前をっ。』
「そーんなこと気にしないでよ。それより、嬉しいなー。こーんな可愛い子が俺の事知ってくれてたなんて!」
『あ、月刊バリボーで、お見かけして。』
「見てくれたの!?」
『はい。叩くなら折れるまで、の及川徹さんですよね?』
「ぶふっ!覚えてるのソコなの!?」
『あ、凄く印象的だったので。』
そうだ、思い出した。
青葉城西高校の及川徹さん。チームの全力を引き出す、珍しい超攻撃型の天才セッター。座右の銘が叩くなら折れるまでって凄いねって、クロちゃんと話してた。
そうか、さっき見た青葉城西の試合の違和感はこの人だ。
今体育館で戦っている及川徹さん抜きのチームは、恐らくいつもの青葉城西とは全くの別物だ。だって、チームの全力を引き出すこの人がここにいるのだから。
「ところで、キミは烏野バレー部のマネージャーさんかな?」
そう言って及川さんは、私の背中をそっと横から覗き込んだ。
『はい、烏野高校バレー部マネージャーのです。』
「へぇー、ちゃんかぁー。可愛い名前だねぇー。··········確か烏野って美人なマネージャーがいたと思うけど、今度はこんな可愛い子まで入ってきてたなんてねぇー。」
『え?』
「いやいや、なんでもなーい。」
及川さんが名前を褒めてくれて、その後はボソボソっと喋ったのでよく聞き取れなかった。
首を傾げてみたけれど、頭をポンポンされてはぐらかされてしまった。