第9章 練習試合 対青葉城西戦
『やっぱりあった!』
案の定、私のメモ帳は私の座っていた座席に落ちていた。
せっかくポケットに移したのに、その後にするりと落ちてしまっていたようだった。手早くポケットにメモ帳を入れる。
試合を早くみたい。急いで戻らなければ。
バスに鍵をかけて、また体育館までの道を少し休み休み走りながら戻る。
こういう時に自分の体力の無さを恨んでしまう。
薄らとにじむ汗。早く体育館に戻りたい。
はぁはぁと上がる息を何とか抑えて、また走り出した時だった。
「ねぇちょっと!!」
『っ?』
すれ違いざまに急に見知らぬ人に後ろから腕を掴まれてしまった。
全然知らない男の人。ニヤリと浮かべられた笑みに、背筋がスっと冷えた気がした。
「君可愛いねー!うちの高校じゃないよね?どこ高?何年生?」
『あ、あの。』
「声まで可愛いじゃん!!ねぇ、これから一緒に遊び行こうよ!!」
『ご、ごめんなさ、あの、急いでるんです。』
思わず声が上擦る。
握られた腕をどうにかしたくて引っ張ってみるけれど、全然ビクともしない。
怖い。
「いいじゃんいいじゃん!」
男の人の力が強いのはわかっていたけれど、こんなにだなんて。
私の力じゃ、全然どうにもならない。
もう一度腕を引っ張ってみても、動かない。
どうしよう。
私の腕を掴んでいる人の顔を見上げて、もう1度離して欲しいとお願いしようとした時だった。
私の腕を掴んでいない方の男の人の腕がこちらに向かってくる。
なに?怖い。
咄嗟に、掴まれていない方の腕で体を庇って目を瞑る。
「ちょーっと!その子怖がってるんだから、やめたげなよ。」
横から聞こえた知らない声。
急に離された私の腕。何が起きたのかと目を開けてみると、見知らぬ背中が目の前に現れた。
白いジャージに薄いモスグリーンのラインとアルファベットで書かれた青葉城西の文字。その下にVBCの文字がある。ということは、バレーボールクラブ?
「んだよ、及川!!」
「あんまり騒ぐと、先生呼んできちゃうよ。この前、同じことで注意されてたの知ってるからね。」
「ッチ!クソが!」
私のことをそっと背に庇ってくれたその人は、私の腕を掴んでいた人をシッシッという動作で追い払ってしまった。
呆然と後ろ姿を見上げていると、背を向けていたその人がクルリと振り返った。