第2章 入学式
山口くんと別れてから少し歩いて、自分の家まであと少し。
月島くんもまだ一緒に歩いているということは、意外と家が近所だったりするのだろうか。
『月島くんの家はこの辺りなの?』
「うん、まあ。もう少しだね。」
やっぱり近いのかも知れない。
高校入学前に、迷子にならないように何度か行き来した家までのこの通り道。
赤い屋根を通り過ぎて、あと少し。
そういえば、学校を出て坂を下った先にあった坂ノ下商店。
お店の前にちらほらと生徒を見かけたけれど、皆学校帰りの買い食いなんかをしているのだろうか。
中学の時は、幼なじみ2人と部活を終えてお腹を空かせて暗い道を3人で歩いた。
あー、腹減ったー。なんて言っていつも右隣を歩く彼と、ピコピコと器用にゲームをしながら左隣を歩く彼。
たまにどこかに寄って食べる事もあったけれど、コンビニだったりファストフード店だったりであんな風なレトロなお店ではなかったな。
中はどんな風になっていて、どんなものが売っているんだろう。何だか少し気になっちゃうな。
今度寄ってみようかな。なんて。
そんなことを考えていると、気づけばもう目の前にまだ見慣れない自分の家が。
庭に植えられたハナミズキの木が風を受けてサラサラと揺れている。前の家から持ってきたこのハナミズキの木。蕾が出来ているのが見える。花が咲くのはもうそろそろだろうか。
『ふふっ、月島くんとここまで一緒なんてビックリ。私のお家、そこのレンガのお家なの。』
「え?」
『ん?』
「え?ほんとに?」
『え?うん、本当だよ。ほら、表札にって書いてあるでしょ?』
40センチ近くも上にある彼の顔を見上げながら答えると、何故か月島くんが驚いた顔。
どうかしたのだろうか?
不思議に思って首を傾げると、月島くんが驚いた顔のまま口元に手を当てて、私の家のお隣さんを指さした。
越してきた時と変わらない。
大きな木の植わった、私の家とはまた違った趣の黒い瓦の大きなお家。
「その隣、僕の家。」
『え?』
月島くんが指した指の先を追うように目線を向ける。
するとそこには確かに、【月島】の文字が書かれた表札が見えた。