第9章 練習試合 対青葉城西戦
ジーッと私の手のひらを少しの間見つめた後、ちょんという効果音が似合いそうな動作で私の手のひらの上にそっと日向くんの手のひらがのせられた。
私とは違う、少し骨ばった男の子の手だ。
昨日調べた通り、手のひらの真ん中をきゅっと押す。どうやら、私の使っていた人という字を飲み込むというのも、この手のひらの真ん中を押すツボから来ているのではないかと書いてあった。
次に、手のひらと腕の境目にある曲がりジワの真ん中をきゅっと押す。これで、緊張が少しでも解れてくれるといい。この前見せてくれたように、高く飛んでくれたら。
『あのね、こことここ、緊張を解すツボなんだって。·····日向くん、どう?』
少しだけ高い所にある日向くんの目をとらえて質問すると、少しの沈黙の後、日向くんが勢いよくバッと手を引っ込めた。何だか顔も真っ赤だ。
『日向くん?』
「あ、あぁあ、ありがと!!」
日向くんは顔を真っ赤にしたままフラフラともうすぐ試合の始まるであろうコートへと移動してしまった。
緊張は解れたのだろうか?
「ねぇ、逆効果だったんじゃない?」
『け、蛍?』
いつの間にか隣にいた蛍。
横にいる蛍を見上げると、手を口にあててクスクス笑っている。
笑い事じゃないんだよー。あんなにどんよりしている日向くんは初めてだ。
「顔真っ赤にしてさ、笑える。あ、··ねぇ、僕にもやってよ、それ。」
『え、緊張しちゃったの?』
「別に。」
蛍は別に、と言ったけれど私の目の前に手のひらを出した。
日向くんとは違う大きな手をにぎって、また緊張を解すツボをきゅっと押す。
『どう?』
「ん、いい感じ。·····じゃ、行ってくる。」
蛍はそう言って背を向けて、コートへと入っていった。
結局、緊張を解すツボとやらが効いているのかいないのかわからないまま、もう試合は始まってしまいそうだ。
でも日向くんの様子を見るに
『んー。』
とても緊張が解れているようには見えない。
顔色は相変わらず悪いし、挙動不審だ。
せっかく虎くんが教えてくれて、私も調べてみたのにな。
何だか少し悲しい気持ちを抱えたまま、青葉城西との練習試合は開始された。