第7章 お昼休みの出会い
「っおい!大丈夫か!?」
いつの間にか、後ろにいる人の胸の中に収まってしまっている。
我に返って大慌てで離れて振り返る。
『ご、ごめんなさいっ。』
振り返って目に入ったのは、黒いツンツン頭に、茶色い前髪が少しおでこに垂れた男の子。
学ランの下のTシャツには【猪突猛進】の文字が。
「ちっこくて細ぇのに、こんなとこ突っ込んでったら危ねぇぞ。」
『ご、ごめんなさぃ。』
「何か欲しいもんでもあったのか?」
『ミルクプリン、美味しいって、聞いて。』
「あぁー!!ちょっと待ってな!!」
『えっ?』
ツンツンした黒髪の男の子は、私の肩をポンポンと叩くと、ピョンッと人集りに突っ込んで行ってしまった。
慣れているのか、もう全然姿が見えない。
待ってなと言われた手前移動も出来ず、そのまま財布を握りしめて立ち尽くす。
すると、ものの数分でビニール袋を2つ持って帰ってきた。
身長は私と10センチくらいしか変わらないように見えるのに、どうやってあの人集りの波を超えたんだろう。
「ほら、これだろ!」
そう言って、1つの袋を私に差し出した。
つい受け取ってしまい、中にチラリと見えたのは私が欲しかったもの。
『ミルクプリン。』
「危ねぇから、次からは誰かに頼めよ!じゃあな!」
『っえ?あの!お金!』
猪突猛進という彼のTシャツは、本当に彼の性格を表していたのだろうか。
私に袋を握らせて、ニカッと効果音が付きそうな顔で笑った彼は、私の頭をポンポンすると手を振ってあっという間に走り去ってしまった。
この人集りを見た時も何か変な汗が流れるのを感じたけれど、またその時と同じような汗を額に感じる。
ありがとうございますも言えず、お金も渡しそびれ、あまつさえ、名前もクラスも学年すらも分からない。
どうやってお礼を言えばいいのか。
『どうしよう。』
しばし立ち尽くしたけれど、このままでいても仕方がない。
どうするかは後で考えるとして、意図しない形で手に入ってしまったプリンを手に、教室で待つ蛍と山口くんの元へと向かった。