第5章 ビターチョコレート
『練習のお邪魔してすみませんでした、わたしそろそ···ろ、あれ?スガ先輩、体調悪いですか?』
「えっ?」
これ以上練習を止めては申し訳ないと、スガ先輩に声を掛けると何となくスガ先輩の顔に違和感。
元々色の白い人だなとは思ったけれど、今日は殊更白いような。
目元をみると薄らと隈があるような。
『ぁ、すみません。顔で体調を見るの癖になってしまっててっ、ごめんなさい、勝手に。』
「ぁ、あーごめん!驚いただけ!実は、日向達の早朝練に付き合ってるから早起きしてて、ちょーっと寝不足なのかも。」
『寝不足、ですか?』
「そっ、ただの寝不足。」
そう言って、スガ先輩はニコりと笑った。
人懐っこい優しい笑顔。
『そうだ、これどうぞ。』
ポケットにまだ余ってたチョコレート。
降ろされたスガ先輩の手を取って手の平に乗せる。
「っ!?·····チョコレート?」
『はい、まだ午後の授業がありますから、寝不足にはチョコレート効くんですよ。眠気覚ましに。·····スガ先輩、顔が赤いです。やっぱり体調·····。』
「ぁあっと、大丈夫大丈夫っ!ありがとね。」
『日向くんにもあげるね。』
「ホント!?ありがとーさん!!」
『それじゃ、失礼しますね。』
「まったねー!!」
2人に手を振って、渡り廊下を後にする。
校舎に入ると、日差しが遮られてしまってさっきまでの暖かさが恋しい。さっき時計を見た教室を覗いてまた時刻を確認。
うん、大丈夫。
行儀が悪いかなと思いつつ、まだポケットに1つだけ残っていたチョコレートを口に入れてから、教室までの道のりをまた歩き出した。
━━━━━━━━━━━━━━━
「あれ!?スガ先輩、顔赤いですよ!!本当に風邪とかじゃっ」
「あー、まじで大丈夫だから!いやー、だってあれはさ、反則だべー。」
「へ!?」
「なんもー!よし、レシーブ練するべ!!」
の去った渡り廊下にまたバレーボールの音が響き出した。
キラキラと照る太陽が2人をいつまでも見下ろしていた。