第5章 ビターチョコレート
まだ慣れない廊下を進み、記憶を頼りに保健室を目指す。
キョロキョロしながらも、何とか迷わずにたどり着き保健室にいた先生からプリントを無事受け取った。
真っ白なシーツのベッド、独特な保健室の匂い。
少し空いた窓から入った風に、カーテンがゆらゆらと揺れていた。
無事に用事も済んだので、失礼しましたと声を掛けてから廊下に出る。
今日もとてもいい天気だ。
青々とした空に、ふわふわとした雲が緩やかに流れていく。
と、ふいに何処からかボールの音が聞こえる。
バレーボールをしている音だ。
音の大きさからして、そんなに距離は離れていないように感じる。
多分、すぐそこの渡り廊下のところ。
バレーボールのこととなると、やっぱり好奇心を隠しきれない。
近くにあった教室に掛けられた時計を確認すれば、まだ時間に余裕がある。
渡り廊下に近づいて行くと、それと同時にボールの音もどんどんと大きくなる。
そっと近づいて覗いてみると、青空の下、風に揺れる見覚えのある後ろ姿。グレーの髪を風にふわりと靡かせているのはスガ先輩だ。
その向こうに見えるのは、太陽の光に反射してキラキラと輝くオレンジの髪。昨日まるで鳥が羽ばたくみたいに高く飛んだあの男の子だ。
『·····スガ先輩?』
そっと声を掛けてみると、弾かれたようにこちらを振り返ったスガ先輩。
「ちゃん!?どうしてここに?」
『えっと、通りかかったらボールの音が聞こえて、気になってしまって。先輩達はここで練習を?』
「そーそー!日向のレシーブ練に付き合ってるとこ。」
『···日向····くん?』
オレンジの髪の男の子は、日向くん?
「君っ、昨日月島って奴と一緒にいた子!!俺、日向翔陽!!よろしく!!」
やっぱりそのようだ。太陽みたいに明るく笑う人。
『私、。よろしくね。』
ニコニコと笑う日向くんにつられて、こちらも笑みが漏れる。
「ちゃんは男子バレー部の新しいマネージャーだから、仲良くやれよー!って、まぁ、日向は心配ないかー。」
「おぉおー!マネージャー!?」
『うん。部活でもよろしくね。』
私が日向くんにまた声を掛けると、日向くんはまた太陽みたいな笑顔でよろしくと元気に言った。