第5章 ビターチョコレート
翌日、一緒に登校した時の蛍はいつもと変わらない様子だった。
顔色もいつもと変わらない、特に眠れなかったということもなさそうだ。
その事にやっぱり安堵して、それからいつもと同じように授業を受けて午前中を過ごした。
鐘が鳴ってお昼休憩の時間になる。
今日は、所属することになった保健委員の保健だよりなるものの見本をこの休憩の間に保健室に取りに行くことになっている。
保健委員の活動内容の1つにこの保健だよりの発行も含まれている為だ。当番制になっているので、来たる自分の番の時にはしっかり発行の役に立てるようにしなくては。
ということで、今日はお弁当を早く食べ終えなくては。
窓際にある暖かい蛍の席に集まって、蛍と山口くんと私とでお昼を過ごす。
「なに?そんなに急いで食べてどうしたの?」
『お昼休みの間に、保健室に行きたいの。』
「えっ?さん、体調悪いの?」
『ううん、ちょっと用事があるだけだよ。』
「あ、そうなんだ!よかったー!·····そう言えばお弁当、今日もさんが作ったの?」
『うん。お父さんもお母さんも、仕事がとっても忙しくて。料理は得意だから、全然苦じゃないの。』
「へー!凄いね!いつもとっても美味しそう。」
山口くんの言葉に、嬉しくなって思わず笑みが零れてしまう。
私のお父さんはお医者さん。お母さんはグラフィックデザイナー。
東京にいた頃からとても忙しく働いていて、家を空けることも多かった両親。この宮城県に来てからはやはりまだ移ってきたばかりの地ということもあり、輪をかけて忙しそうにしている。
昔は寂しいと思うこともあったけれど、研磨もクロちゃんもいたし、2人の家族も私に良くしてくれた。
それに、両親が自分に沢山の愛情を注いでくれていることはとてもよく分かっていたので、今でもこんな風に働く両親を誇りに思っている。
という訳で、自然と家事に関しては身についていったという面もある。
自分で作ったお弁当の最後に残していた卵焼きを頬張って、飲み込む。
『ご馳走様でした。ちょっと行ってくるね。·····そうだっ。』
ポケットに、ビターチョコを入れていたんだった。
『食後のおやつにどうぞ。』
そう言って、2人の手の平に1つずつチョコレートを乗せてから私は教室を後にした。