第4章 烏野高校バレー部
入学してから数日、蛍の隣にいて分かったのは、蛍はとても頭がいいということ。
学力は勿論なんだけれども、そうじゃなくてもっと根本的な。
きっと、頭が切れるという言葉は蛍のような人に使うのだと思う。
それは、私の心を温かくしてくれる、気づきにくいような些細なことまで気にかけてくれるその行動が表していると思う。
そしてそれは逆も然りで。
人の心に影を落とすような、何を言えば相手が嫌な気持ちになるのか、心揺らす言動は何なのか、見極めるのがとても上手いのだと思う。
現に、【王様】と呼ばれた黒髪の男の子が、蛍の言葉によって激昂しているのがよく分かる。
それを追うようにオレンジの髪の男の子も。
こんな風に、相手を観察してしまうのは、もしかしたら研磨の影響だろうか?
でも、この蛍の機微に聡い所は、蛍にとってのバレーボールに、とても重要なことではないかと思う。
バレーボールは、知れば知る程奥が深い。ボールを落とした方が負ける。でもその過程での心理戦はとても重要なのだと思う。
蛍はそういうの得意そう。
東京にいた頃、確か相手を挑発することに長けていた学校があった。
それも勝つ為の手段の1つなのだと理解した。
あぁ、でも今回はこれからチームメイトになる相手だ。
止めた方がいいよね?
そう考えて、蛍に向かって手を出したその時だった。
目の前をオレンジの風が横切って
そして跳ねた。
それはまるで、鳥が地を蹴り飛び立つように。
ふわりと、それでも力強く羽ばたくように。
蛍が手の平でポンポンと頭上よりも高く跳ねさせていたボールは、1番高く空に近付いた所で、オレンジ色の鳥に捕まった。
「王様王様ってうるせぇ!おれも居る!!試合でその頭の上撃ち抜いてやる!!」
「·····は?··········そんなキバんないでさ、明るく楽しく程々にやろうよ。たかが部活なんだからさ」
「たかがってなんだ!!」
「そのままの意味。·····じゃあまた明日ね。」
「おい待てコラぁ!結局お前どこのどいつだっ!!」
「·····1年4組、月島蛍。今日から君らのチームメイトだよ。あ、今は敵か。王様のトス、見れるの楽しみにしてるよ。」
蛍はそう言うと、私の手首を掴んで歩き出した。
蛍から発せられるピリピリとした空気は変わらないまま。