第23章 番外編 とある少女Aの独白
あぁ、しまった、やってしまった。と、そう思ったのは隣に座ってこちらを見ている彼女の顔が、ぽかんと効果音の付きそうな顔でこちらを見ているのを視界に収めたからだ。
慌てて自分の口を抑えてみても、1度吐いた言葉はもう戻っては来ない。
彼女の顔が、例えば嫌悪だったり幻滅だったり。そんな顔に変わっていってしまう様を見たくなくて。怖がりで臆病な私は、慌てて膝の上に置かれているお弁当へと視線を移した。
それが、どれだけの時間だったのか。
ほんの数秒だったかもしれないし、数十秒経っていたのかもしれない。何の反応も言葉もない彼女がやっぱりどうしても気になってしまって、恐る恐る視線を彼女の顔へと向けた。
すると、そこにあったのは私に対する嫌悪なんかの感情では無くて。
「あ、あの。…えっと。」
ただ、心底何を言っているのか分からないと言いたげな顔だった。
『どうして?つまらなくなんてないよ。とっても楽しいよ。』
少し戸惑ったような、不思議そうな声出そう言って首をちょこんと傾げた彼女は。そのすぐ後に、目を少しだけ見開いて、慌てたように口を覆っていた私の腕をそっと触った。
遠慮がちに触れた彼女の手に、他人との接触に慣れていない私はピクっと反応してしまって、それを感じたのだろう彼女は、すっと手を離して困ったようにこちらを見てきた。
『あの、ごめんね。もしかして私がつまらなかった?ごめんね。バレーボールの話ばっかり、私がするから。楽しそうに、聞いてるように見えたから、嬉しくなって、いっぱいお話しちゃって、ごめんね。』
そう申し訳なさそうにしょんぼりと眉を下げてしまった彼女の様子を見て、私は慌てて声を掛ける。
「ち、ちがうっ。違うの!私、わたしがっ。…こんな…話をしてくれて、とっても嬉しくて、楽しくても全然反応出来ないし、顔も変わらないし。っだから嫌な思いをさせてたらどうしようって思って。」
私がいっぱいいっぱいで、そう伝えると彼女はさっきよりももっと心底不思議だというようにまた首をかしげた。
珍しく、少しだけだけれども眉間に皺まで寄っている。
彼女は、案外表情が豊かだ。
けれど、こんな顔は見たことがなかったなと、そんなことを現実逃避し始めた私の頭が考え出した頃、彼女はまた口を開いた。