第23章 番外編 とある少女Aの独白
それはあるお昼休みの事だった。
春から夏に移り代わっていく心地の良い陽気で、髪を攫っていく風は調度良い温かさでふわりと肌を撫でていく。
お弁当を持って、中庭のベンチに座る彼女は、少し陰った木の影から差し込む太陽の光が少しだけ彼女の綺麗な髪に反射して、元から色素の薄いミルクティーのようなそのふわふわと揺れる髪が、なんだか透けてしまいそうな程キラキラとしていて。
周りを囲む緑と相まって、実は彼女は妖精なんです。なんて言われても、あぁ、そうなんだと納得出来てしまうほどには神秘的で可愛らしかった。
そんな浮世離れして見える彼女だけれども、これまで過ごして来て思ったのは、意外によく笑うし、よく喋るということだ。
特に、彼女がマネージャーとして所属している男子バレー部のことについては殊更よく話を聞かせてくれる。
子供の頃から慣れ親しんでいるらしく、バレーボールのルール等にも詳しい彼女から聞く話は、体育なんかでしかバレーボールを触ったことの無いぐらいの私にもとても楽しく思えた。
それは、彼女の話し方がとても上手で引き込まれてしまうということもあったし、何より、楽しそうに喋る彼女を見ているだけでもこちらも楽しくなってしまうというのもあったと思う。
特に話題に登る、同じ学年であるというヒナタくん、カゲヤマくんという子達については、会ったことも無いのに親近感が湧きそうなくらいにはお話をしてくれていたと思う。
現に今も、自分で作ったというお弁当をもぐもぐと小さな口で頬張った後、楽しそうにニコニコしながら話をしてくれている。
もしも私の感情が、その大きさに比例して表情に現れていたのなら、それはもうニヨニヨとだらしない顔を彼女に向けていたと思う。
とはいえ、現実はそうもいかないけれど。
相も変わらず、楽しいと思っていても表情はあまり動かない。
心の中はルンルンなのに、毎度ながらこの表情との落差に辟易する。
ふと、彼女の様子が気になる。
ニコニコとお話してくれているけれど、私といて楽しいだろうか。
こんな無表情に近い顔で、相槌をほんの少し入れられる程度のコミュニティ能力。
きっと、可愛らしくて素敵な彼女には、もっと魅力的な人が相応しいのだと思う。
「私といて…つまらなく…ない?」
そんな事を考えていたら、ポツリと声が盛れていた。