第23章 番外編 とある少女Aの独白
入学式を終えてから数週間。
件の彼女は、入学式初日から何だか仲良くなったらしい月島と山口とかいう2人と一緒にいる姿をよく見かけるようになった。
相も変わらず彼女はとても可愛らしくて。尚且つふわふわと可愛らしい笑顔を振りまく彼女には、近寄りがたい雰囲気がある訳ではないのにその2人以外に近づく人はあまりいなかった。
なぜだろうと様子を伺ってみると、どうやらあの月島とかいう大きいやつが睨みを利かせているのがわかった。
近寄ろうものなら、あの長身から見下ろされるのである。
彼の冷ややかな視線は、その角度も相まって向けられればそれは怖いだろうなと想像に難くなかった。顔が整っているのが、更にその恐ろしさに拍車をかけているような気がする。
そんな中でも、彼女は何故か私を気にかけてくれることが多々あった。自分の席が、彼女の前で良かったと柄にもなく浮かれているのがわかる。関わりを持ちたくないと思っていたのに、現金なものだと思う。
それでも、例えば前から送られてくるプリントを彼女に渡す時なんて、クラス中の誰もが流れ作業のようにさっさと渡していくのにも関わらず、彼女は律儀にも毎回ありがとうと言ってふわりと微笑んでくれるのだ。
結局私はその笑顔が可愛くて仕方がなく、彼女に喋りかけられれば嬉しくなって、喜々として会話を続けようと慣れないながらに四苦八苦してしまうのだ。
彼女は、私と話しているときにも、月島や山口と話している時のような屈託のない笑顔を向けてくれる。
けれど、ふとした瞬間にやっぱり思うのだ。
こんな私と話していて楽しいのだろうかと。
クラスの中を見渡してみれば、女の子は表情豊かに友達と談笑しているのが見える。
不愛想なあの月島でさえ、彼女に向けるその顔は穏やかで。さらに言えば、ほかのクラスメイトには笑いかけもしないのに、彼女にはそんな顔が出来るのかと疑ってしまうくらい優しい顔で笑いかけているのだ。
それに比べて私は、相も変わらずで。
彼女と話しているのはとても嬉しいし楽しいのに、それがなかなか表情になって表れてくれないのだ。
なんで私の顔はこんな風なんだろう。
それならそれで可愛げがあればいいのに、なんでこんななんだろう。彼女と接すれば接する程、その申し訳なさは募っていった。