第22章 インターハイ予選 対伊達工業戦
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口元に近づけたティーカップから、温めたアップルジュースの良い香りがする。
削って入れたレモンの皮から香る爽やかな匂いと、少しだけ入れたシナモンの匂いも相まってアップルパイが目の前にあるみたい。
アップルジュースを温めるととっても美味しいのだと教えてくれたのは、東京にいた頃に行っていた喫茶店のマスターだったかな、それとも違う知り合いだったかな。すっかり小さな頃から馴染みがあるその飲み物は、疲れた体をほかほかと温めて癒してくれた。
ふわふわと立ち上った少しの湯気の向こうのテレビ画面。
及川さんのサーブしている姿が映っているのを、ティーカップ片手にジッと見つめている。
学校で試合のDVDを複製した後ミーティングを終わらせて、家に帰りついてからは、今日行われていた青葉城西対大岬戦の様子を繰り返し見ているのだ。
何度見ても凄いと思う。
スパイクと見間違う程の威力と、それでも目的の場所に決められるコントロール力のあるサーブ。
練習試合の時には見られなかったトスも、本当に素晴らしいと思う。及川さんの何処が凄いの?と聞かれたら、沢山の凄いところを指折り数えて言えそうだ。
不安になって、胸元にあるクッションをぎゅっと強く抱き締めてみる。ふぅ、と息を吐いて烏野のメンバーを思い出す。
うん、大丈夫。
烏野の皆は強い。
どんどんと流れていく画面を見ながら、花巻さんは木葉くんみたいに器用になんでも出来るんだな、とか。
松川さんはどんな時も冷静で、リードブロックが徹底出来てるな、とか。岩泉さんはクロスが凄く強いけれど、超インナーとかもいけるんだろうか、とか。そんなことをふわりと心の底で考えながら、少し気を抜いていたところで、近くに置いていたスマホから聞き慣れた着信音が鳴り響いた。
にゃーん。と一言鳴ったその音は研磨からメールが来た合図だ。
今日の試合に勝てた事を報告したから、その返事かな?と画面を覗いてみると、思った通りの内容だった。
とっても簡潔に、”良かったね”と一言とおまけにちょこんと添えられている猫の絵文字。
部活から帰れば四六時中ゲームに勤しんでいる研磨が、こうしてその手を止めて何気無いこんな文章に返事をしてくれているのかと思うとやっぱり嬉しくなってしまう。