第22章 インターハイ予選 対伊達工業戦
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帰りのバスの中は、行きのバスの様子とは違いとっても静かだった。
スピースピーと言う音や、ぐおーっという鼾の音に耳を傾けながら後ろを少し振り返ってみると皆と同じようにスピスピと音を立てて寝ているアサヒ先輩と澤村先輩がシートの隙間から見えた。
沈みかけたオレンジ色の夕日が、バスの中を照らしているのを感じながら興奮冷めやらぬ私は隣にいる清子先輩にずっと話しかけている。
だって、本当に今日の試合は凄かった。
伊達工業の鉄壁は本当に強くて。だって、あんなに大きな選手なのに機敏に動いてすぐに鉄壁を築いてしまう。
それでも、その伊達工業に勝った烏野はもっと凄いのだけれど。
その事実がとってもとっても誇らしい。
皆が頑張って練習してきた成果が、この結果に現れている。
『西谷先輩のっ、最後のあの足でレシーブしたの凄かったですねっ。もう間に合わないって思ったのに、ちゃんと上がってっ。』
「ふふっ。そうね。」
『それに、あの影山くんのトスもっ。アサヒ先輩の得意なトスがとても綺麗に上がってましたよねっ。』
「うんうん。」
『日向くんの速攻も凄かったです。皆、びっくりしてましたもんねっ。』
「ふふっ、うん。」
『アサヒ先輩も、本当に凄くて···。』
ふと、もう1度後ろを振り返ってみる。
隙間から見えるその気の抜けたアサヒ先輩の寝姿に、急に自分の体の力がスっと抜けていく気がする。
あぁ、どうやらずっと体に力が入っていたみたい。
試合の後に見た、アサヒ先輩のスッキリとした顔。
高い壁の向こう側を、先輩はきっと見ることが出来たんだろう。
『本当に、良かったです。』
「うん。そうだね。」
ホッと胸を撫で下ろすと、清子先輩の、私よりも少しだけ大きな手がふわりと頭を撫でてくれる。いつもと変わらない笑顔を向けてくれる清子先輩に、何だか凄く安心して。
そうすると、今日、ちゃんと皆が勝てたんだと急に実感が湧いてきて、少しだけ膝の上で握っていた両手がふるふると震えた。
良かった、本当に良かった。
黄昏時って、感傷的になるって言うけど本当だ。
だって、嬉しくて嬉しくて仕方がない筈なのに、涙が出そうになる。
窓の向こうに映る街並みを見ながら、何とか気を逸らして溢れそうになる涙を堪えた。