第22章 インターハイ予選 対伊達工業戦
第1セット目中盤のタイムアウト。
集まっている伊達工業の選手達ををぼーっと見つめていた。
伊達工業にとって、今日向くんはどんな風に見えているんだろう。
コートに立って試合をした事の無い私は、プレイ中に相手校の選手がどんな風に見えるのかわからない。
さっき日向くんが、このインターハイ予選で初めてあの速攻を使った。
伊達工業戦では、それを使わなければ確実に負けるからだ。その甲斐もあって試合前よりも日向くんを警戒しているのがよくわかる。
そしてそれは、伊達工業だけでなく観客席も。
伊達工業の選手達には、日向くんはどう見えているのだろう。
思わず日向くんを目で追ってしまうのだろうか、それとも、意識しないようにと務めるのだろうか。
どちらにしろ、こちらには好都合だと思う。
タイムアウトが終わってから伊達工業がどんなブロックを展開してくるかはわからない。
けれど、この空気ならばアサヒ先輩も田中先輩も格段にスパイクは打ちやすくなるだろう。
コートに立たない私には分からない。
目の前に広がる、大きな大きな壁。
その向こうは、どんな景色なんだろう。
ふと、目の前に影が落ちる。
見上げた先には、アサヒ先輩がいた。
『アサヒ先輩?』
「ちゃん、お願いがあるんだけど。」
『っはい。私に出来ることなら何でも。』
「ちゃんには、笑っていて欲しい。」
『ぇ?』
「ちゃんが笑って、頑張れって言うだけで何でも出来そうな気がするんだ。だから、」
笑って、とそう言って微笑んだアサヒ先輩。
あの日の、俯いていたアサヒ先輩はもういないのだと、そう思う。
頑張って欲しい、負けないで欲しい。
あの日の雪辱を晴らして欲しい。
『はいっ、頑張ってくださいっ。』
目の前に広がる、大きな大きな壁。
アサヒ先輩には、その向こう側を見てきて欲しい。
私は、上手く笑えていただろうか。
タイムアウトを終えたすぐ後。
『···っパイプ。』
日向くんが打つと思わせてブロックを釣ったその後ろで、大きく飛び上がったアサヒ先輩は、バックアタックを打ち切った。
その時のアサヒ先輩の晴れやかな顔に、私はやっと安堵の息を吐いたのだった。