第21章 インターハイ予選 対常波戦
岩泉さんと及川さんと別れてから、時間はあっという間に過ぎていき、いよいよアップも終わり、ついに対常波戦が始まろうとしていた。
エアーサロンパスの匂い、応援の声。
ユニフォーム姿で、気合の入った顔の皆の様子。
どれもが私の気持を高揚させているような気がする。
研磨とクロちゃんがくれたいつものヘアゴムで、いつもより少しきつめに結んでみると、キュッと引っ張られたその僅かな痛みさえも、なんだか今は心地よいもののように感じた。
「開幕一戦目、誰だって緊張なり高揚なりで普段通りじゃない。そこからいかに一歩早く脱け出せるかだ!まずはドカッと一本決めて流れを掴め!」
いよいよ試合が始まる。
監督のもとに集まった、皆の少し緊張した顔を見回す。
頑張ってほしい。負けないで欲しい。
皆がコートに立つ姿を、少しでも長く見せてほしい。
ぎゅっと目をつぶって、ドキドキとなる心臓を抑える。
「ちゃんちゃん。」
ふと、スガ先輩から声を掛けられた。
弾かれたように皆の方を見上げると、全員がこちらを見ていた。
『ぁ、えっと。』
ふと視線を外すと、観覧席に見えるのは"飛べない烏"だと、"落ちた強豪"だと、そう噂していたあの学校の選手たち。
『皆は、"飛べない烏"なんかじゃないです。』
あぁ、こんなにも好戦的な気持ちになるなんて。
私には見える。
皆の背中に生えた、大きな大きな黒い翼。
見せつけて欲しい、その翼を。
この観客席にいる全ての人に。
『見せつけてやりましょう。私たちには、大きく羽ばたける翼があるんだって。巻き込みましょう、観客席まで。』
「言ってやりましょう!"見よ、古兵烏野の復活だってね!」
ウス!!という声が、口々に上がる。
こっそりと古兵って何?と聞いてきた日向くんの様子に肩の力が抜けるのがわかる。
今回は、日向くんも緊張せずに試合に臨めそうだ。
前の練習試合の時とは顔色が全然違う。
『頑張りましょうっ。』
コートに入っていく皆に声をかけると、振り返ってこちらに笑顔を向けてくれた。
それを見送ってすぐ、試合開始の笛が鳴った。