第20章 インターハイ予選前日譚
「まぁ、ありがと。」
「さん、ありがとう。」
『どういたしましてー。』
2人も喜んでくれたみたい。
次は、と日向くんに視線を移してみるとソワソワと効果音がつきそうな顔でこちらを見ている。
分かりやすい日向くんのその様子が面白くて、可愛くて。
思わず日向くんに駆け寄ってしまった。
『日向くんっ。』
「ははは、はっ、はいぃー!!」
『ふふっ。はいっ、日向くんにもお守り。明日から頑張ろうね。』
「ふぉーー!!さん、ありがとうー!!」
『影山くんにも、はい、どうぞ。』
「あっス。」
日向くんと、隣にいた影山くんにもお守りを渡す。
頑張って作ったお守りは、これで全部だ。
空になった紙袋を見て、全部渡せてよかったと思わず笑みがこぼれる。皆を見渡せば、まだお守りを見て笑っている。
その様子がとても嬉しくて、頑張ってよかったと心から感じる。
あとは潔子先輩の応援幕だけだ。
武田先生が手伝ってくれるとのことだったので、私はやっぱり1番落ち着く蛍と山口くんの隣に移動した。
2人の間に挟まれて、上から聞こえたバサッという音のした方に視線を向ける。
ギャラリーの柵に結ばれた、飛べという文字の書かれた真っ黒の応援幕。
あぁ、いよいよ明日なんだと急に実感が湧いてきてしまった。
心臓が急にドキドキと鳴り出してしまって落ち着かない。
それでも、目を閉じれてみれば思い出す、試合会場のあの独特の空気。
体育館中に響く、シューズがキュキュッとなる音。
明るい照明、応援団の声、バレーボールの跳ねる音。
握りしめて、白くなった手のひら。くい込んだ爪の痛み。
歓喜に打ち震える声。
体育館を出ていく、震えた背中。
体育館に立って、そこにいる間に起きる出来事は嬉しいことだけではない。身を切るような悔しい思いをすることもある。
それはいつだって、紙一重で。
けれど、どんな結果になったとしてもずっと前を向いて行かなければ。選手ではないけれど、一緒にコートには立てないけれど、それでも心持ちだけは、前を向いていなければ。
ふぅ、と息をついて、また応援幕を見上げる。
体育館の照明に照らされて、なんだが神々しくも見える。
けれど静かにそこにあるその文字に、私の胸の奥はザワザワとざわめいた。