第20章 インターハイ予選前日譚
『田中先輩っ。』
「おれ、もう天に召されても、いい。」
私は慌てて駆け寄るけれど、そんな私を他所に皆凄く笑っている。
西谷先輩なんて、お腹を抱えて笑っている。
『あの、た、田中先輩。』
「いいよいいよちゃん。多分そのうちちゃんと復活するから。田中のことより、まだお守りあるんでしょ?渡してきてあげたら?」
『あ、えと、あの。はい』
田中先輩と、縁下先輩の顔を交互に見つめて、取りあえず縁下先輩の言うとおりにしようと紙袋から縁下先輩の分のお守りを取り出して先輩に差し出す。
すると先輩は驚いたようにこちらを見つめた。
「…あ、…俺の分まで、作ってくれたの?」
『はい、勿論です。·····明日から頑張りましょうね。』
「···うん。っありがとう。」
ぎゅっと大事そうに受け取ってくれた縁下先輩を、温かかな気持ちで見送って、成田先輩と木下先輩にもお守りを渡した。
2人とも驚いていたけれど、とても喜んでくれた。
田中先輩は大丈夫だっただろうかと、視線を移してみるとすっかり起き上がって西谷先輩とお守りを頭上にかかげて何か言っている。
何をしているのかはわからないけれど、喜んでくれているのは確かみたいだ。
喜んでくれるだろうかと不安に思っていたけれど、先輩達の喜んでくれた顔を見ていたらすっかりそんな気持ちは消えてしまった。
次は蛍達に渡そうと身を翻すと、体を動かす前にぽんと頭に手の感触を感じた。
その手の持ち主を見上げるとそこにいたのは目当ての人物だった。
『蛍っ。』
「勿論、僕のもあるんだよね?」
『ふふっ。うん、もちろん!山口くんのもあるよ。』
「ほんと!?俺、お守りなんて貰うの初めてだよ。」
いつものように顔を覗き込んでくる蛍と、蛍のすぐ隣に立っている山口くんの手にお守りをちょんと乗せる。
2人とも嬉しそうにしてくれるのを見て、やっぱりこちらも嬉しくなる。
「手に絆創膏してるなと思ってたけど、これだったの。」
蛍はそう言うと、今はすっかり綺麗に治っている私の手を持ち上げて手をじっと見つめた。
内緒、と返すとふーんと蛍から返ってきたけれど、私の手から離れた蛍の手はまた私の頭を撫でた。