第20章 インターハイ予選前日譚
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澤村先輩が喜んでくれて本当に良かった。
先輩の笑顔を見て、やっと周りに聞こえそうな程ドキドキと鳴っていた心臓も、落ち着きを取り戻した。
先輩にお守りを渡した後に、ふうっと一度息を吐いてから、どんどんと集まってきてくれた先輩達に向き直ってお守りを渡していく。
『スガ先輩。』
「おーっ。」
『明日、頑張って下さいね。』
「あーちゃん、ありがとー!ほんっと嬉しい!」
『アサヒ先輩。』
「っはい!」
『明日頑張って下さいね。』
「わぁ、本当ありがとう。凄く嬉しいよ。」
スガ先輩とアサヒ先輩がほほ笑んでくれているのを見て、ホッと胸を撫で下ろす。
喜んでくれただろうか。少しは役に立てるだろうか。
2人の先輩が、お守りを胸に抱き込んでいるのを見守りながら次は、と2年生の先輩たちに向き直った。
『西谷せんぱいっ』
「おー!ありがとなー!おい龍!お前もこっちこいよ!がお前の分も作ってくれてるぞー!」
西谷先輩に渡すと、頭をガシガシと撫でられた。
少しよろけたけれど、嬉しくなってまた笑みがこぼれた。
西谷先輩が呼んでくれたように次は田中先輩に渡そうと視線を移すと、少し離れたところで固まっている田中先輩を見つけた。
隣にいる縁下先輩が一生懸命田中先輩を引っ張っている。
「おい、たーなーか!」
「……。」
近寄ってみて、縁下先輩を見上げると困ったように笑っている。
「あー、この前ロッカーでさ、お守りなんか貰ったらもっとやる気出るだろうなーって田中が冗談で話してて。まさか本当に貰えるなんて少っしも思ってなかっただろうから。」
縁下先輩はそう言いながらユサユサと田中先輩をゆすっているけれど、依然として田中先輩は固まったまま。
でも、ということは田中先輩はお守りを渡したらとても喜んでくれるのだろうか。
嬉しくなって、急いで紙袋から田中先輩の背番号のお守りを出して田中先輩に差し出してみる。
『田中先輩、明日の試合頑張って下さいね。』
ゆらり、とした緩慢な動作で差し出された先輩の両手にお守りを乗せると、ての平のお守りをジッと見つめた後、ふにゃんっとした動作で田中先輩は倒れた。