第20章 インターハイ予選前日譚
side 澤村 大地
いつからだっただろうか。
「これ、さんが、作ってくれたのか?···っありがとう。」
いつからだっただろうか。
彼女が微笑んで、頑張ってと言えば、何でも出来そうな気持ちになるようになったのは。
自分が手に握っているお守りを、マジマジと眺めてしまう。
自分の背番号を入れてくれている、細かなところまでよく出来たそれは、ひと目で手の込んだものだとわかる。
忙しい日々の中で、彼女は自分の時間を削って俺たちの為にここまでしてくれたのか。
何故彼女は、自分たちの為にここまでしてくれるのか。
彼女は、入部したての1年生であるにも関わらずあらゆる面で十分すぎるほどに貢献してくれた。
それなのにまだこんなにも。
申し訳ないという気持ちと共に、それでも嬉しいと心の中の自分が叫びだす。
ドキドキと鳴りやまない心臓。落ち着かない心。
それでも胸はとても暖かい。
自然と緩む顔のまま彼女を見れば、俺の顔を見てどこか安心したようにふわりとほほ笑んだ。
『頑張って、下さいね。』
少し恥ずかし気に頬を染めて、眩しい程の笑顔でそうつぶやいた彼女。
顔に熱が集まるのがわかって必死に手で顔を隠した。
やっぱりそうだ。
何でも、出来そうな気になるんだ。
顔の熱が落ち着いてから、ありがとうと、また一言彼女に声を掛けて頭を撫でていると、ナニソレナニソレー!!と大騒ぎしながらスガが駆け寄ってくるのがわかった。そのスガを皮切りに、全員が俺とさんの周りにソワソワとした様子を隠そうともせずに集まってくる。
急に皆に囲まれて、少し慌てた様子のさんに、また笑いがこぼれる。
恐らくだが、俺が感じているこの感情はこのバレー部のほぼ全員が感じているんだと、そう思っている。
彼女の存在が、このバレー部にとってとても大きなものになっているということだ。
でも、とてもよくわかる。
彼女の笑顔は、太陽の日差しのように暖かいから。
そんな彼女が、こうしてこの烏野バレー部にいてくれることを、本当に感謝したくなる。
彼女が、ゴソゴソと紙袋をあさってスガに渡しているのを見ながら、俺は心の中でもう一度ありがとうと、彼女に囁いた。