第20章 インターハイ予選前日譚
ずっとずっと、部屋に掛けてあったお気に入りのカレンダーにその日が終わる度に印を付けてきた。
インターハイ予選前最後の練習も終えて、ビブスを畳んで片ずける。
畳みながら何故かそのカレンダーの様子がふと思い出された。
毎日どんどんと増えていくバッテンの印。
その印が増える度に、インターハイ予選が近づいてくる。
今日、家を出た時には宮城県インターハイ予選の日付までバッテン印が付くのは残り1つだった。
今日家に帰って印を付ければ、バッテンを付けるところはもう無くなるのかと思うと、どうしてもソワソワした気持ちは収まらなかった。
ソワソワと言えば、緊張するのでずっと考えないようにしていたけれど練習が終わればお守りを渡すのだ。
皆が喜んでくれるかどうか、どうしても気になってしまう。
周りの様子を見廻すと、コートも片付けられて、モップがけが始まっている。私も急いで片付けを終わらせなくては。
畳む自分の手を急かして、急いでビブスを片付けてくる。
体育館に戻ると、一箇所に集まった皆に鵜養監督から今日はよく休めと声がけがあった。
じゃあこれで、と澤村先輩が解散しようとした所で武田先生から皆に声をかけてくれた。
「あ、ちょっと待って!もう1ついいかな?清水さんと、さんから!」
一斉にこちらを向いた視線に、体が硬直するのがわかる。
何となく、どこに視線を移したらいいのかわからなくなって俯いてしまった。顔に熱が集まるのがわかる。
いつも一緒にいる皆なのに、なぜこんなにも緊張してしまうのか。
それでも意を決して前を向いた。
『あの、明日に向けて皆さんにお守りを作って来ましたっ良かったら受け取って下さいっ。』
一思いにそれだけ言い切って、用意した紙袋を手に持ってそのままの勢いで澤村先輩の前まで移動する。
紙袋から澤村先輩の背番号のお守りを出して、サッと先輩の目の前に出した。
反応が怖くて、顔が見られなくて、俯いたまま渡してしまった。
そっと、私の手からお守りが抜かれるのがわかる。
それを感じてから澤村先輩の顔を見上げると、目を見開いて驚いたような顔をしているのが見えた。
どうしよう、迷惑だっただろうか。
余計なお世話だっただろうかと不安になったけれど、澤村先輩は驚いたその顔の後に、綻ぶように笑った。