第17章 薄紅葵のティータイム
失礼します、と声を掛けられて視線を向けると店員さんが飲み物をテーブルの上に置いてくれる。
カチャリと音を立てて、及川さんの目の前に置かれた素敵な花模様のティーカップ。ふわりと立ち上った白い湯気からこちらにまで紅茶のいい香りが届く。
私の目の前にもカチャリと音を立てて置かれた透明なガラスのティーカップ。まだ中身の入っていないそれが、陽の光を浴びてキラキラと光って見える。
そして、次いで置かれたティーポットの中身に、私はおどろいて思わず声を上げた。
『っきれい。』
ティーカップと同じ透明のティーポットに入れられた液体は、まるで夜空をポットの中に閉じ込めたような色をしていた。
青よりも少し深い、群青色のような。
ゆらゆらと中身が少し揺れているのが、色彩のせいだろうか、とても神秘的に見える。
「ははっ、ちゃん目がキラキラしてる。可愛いー。」
及川さんが、頬杖をついてこちらを見ている。
向けられた優しい微笑みに何となく気恥しい気持ちになりながらも、そのティーポットの中身のお茶はどんな匂いがするのだろうという好奇心に勝てず、そっとティーポットの持ち手を持って目の前のティーカップに注ぐ。
途端に目の前で立ち上がった湯気から、何とも爽やかな匂いがする。この匂いは、
『レモンバーム?』
「そ、当たりー。ちゃん好き?」
『はい、とってもっ。』
1度息を吐き出してから、もう一度カップから香る香りを堪能する。
レモンに似た爽やかなとってもいい香り。
幸せになるその香りに、どうしても頬が緩む。
「ちゃん、そこに置いてあるレモン少しだけ垂らしてみな。」
『はい。』
及川さんに言われて、レモンを手にとって飛び散らないように気をつけながらカップの中に数滴垂らしてみる。
『っわぁ!』
「ははっ。」
すると、さっきまで青かったカップの中身がレモン果汁の垂れた場所からどんどんとピンク色に変わっていく。
まるで魔法みたいだ。ゆるゆると変わっていくその色彩がとても綺麗で少しの間見とれてしまった。
『及川さんっ、凄いですっ。綺麗です。』
完全にカップの中身がピンク色に変わってしまった。
視線をカップから及川さんに移すと、相変わらず及川さんはこちらを見て微笑んでいた。